2008/2/25

  2008年2月25日(月)
  I. 富士フイルムのTOBは可能か。
  II. 住友金属鉱山と商品相場。

 I. 富士フイルムのTOBは可能か。
(一)880円が成否の分岐点。

(1)富士フイルムのTOB期間は2月19日から3月18日までの1ヶ月間である。しかしその間に株価が880円を突破すれば、TOBは事実上失敗となる。
(2)TOB開始直後から株価はジリ高となり、880円に肉薄している。
(3)依然として私に寄せられる相談が多いので、今週も続いて取り上げた。
(4)富山化学は赤字、無配を続けているが、複数の大型新薬の開発を進めており、大多数の株主は当期利益よりも将来の夢の実現を期待している。
(5)しかるに富士フイルムは買収後、即座に上場を廃止する旨の文書を株主に送りつけた。一般株主には難解な表現であるが、要するに株主の糧道を断って即時売却を迫る強引な手法である。そのために株主の間に混乱と不信感が広がった。
(6)東証の上場廃止基準は株主数が400名以下に減った場合とあり、22,000人の株主が400人以下に激減することはありえない。富士フイルムはなぜ一般株主の閉め出しを急ぐ必要があるのだろう。
(7)以下にそれらの背景を考えてみたい。

(二)大口売買の主体は誰か。

(1)2月18日以降の売買手口には大きな特徴がある。1回12万株単位で、例えば「875円カイ、874円ウリ」という風に1円の損失を出しながら売買を重ねる大口取引が連日、出来高の3分の1近くを占めている。
(2)買いの主体が富士フイルムとは思えない。TOB期間に入る前日の18日からすでに売買が始まっており、TOBは公開市場で万人注視の下に公明正大に行われなくてはならないという原則に反する行為だからである。
(3)さらに、売買に伴う損失は1,000万株につき1,0000万円に達するから、富士フイルムのために損失をかぶって協力する企業があるとも思えない。
(4)それならば株集めの主体は誰だろうか。880円という株価算定に疑問を持つ外資系証券等が、条件改訂を狙って介入したかもしれない。或いは内外の大手製薬会社が対抗馬として登場したかもしれない。
(5)事実は将来、大口売買の手口と主体が明らかになった時に判明する。
(6)いずれにせよ、連日下値に買い玉がびっしりと這わされているのに対して、880円までの売り玉は2〜3百万株に過ぎない。株集めの主体の動向によっては大きな波乱が予想される。
(7)株主権が強い欧米ではTOBは簡単には成立しないが、株主権が軽視されがちな日本では失敗する方がめずらしい。しかし日本でもTOB時代の到来が必至となった時だけに、今回は重要な試金石となる。

(三)不成立で広がる株主の選択肢。

(1)株価が880円を突破すればTOBは事実上不成立となり、株主、投資家の選択肢が次の通り、大きく拡がる。
(2)何よりも富山化学の上場が維持される上に、買収価格の改訂が期待できる。
(3)野村證券に株券を持ち込むまでもなく、株式市場で、いつでも自由に、より高い株価で売却することができる。
(4)新たな思惑が錯綜して新規投資家が参入する。
(5)最悪でも880円の受け皿があり、下ぶれした場合のリスクが小さい。
(6)新型鳥インフルエンザ特効薬や、アルツハイマー治療剤や、リュウマチ治療剤に関する新たな情報開示が株価を刺激する。

(四)「インサイダー取引」の疑惑はないか。

(1)富士フイルムは富山化学の企業価値を過小に評価していると私は思う。
(2)第1に、株価算定期間の選び方が恣意的で、株価を最も低くするために「直近の3ヶ月」を設定した。しかしこの点は違法とは言えない。
(3)第2に、これまで富山化学とも製薬業界とも無縁であった富士フイルムが突然TOBを宣言したのは新薬開発に関して富山化学からよほど重要な「インサイダー情報」を得たからと推定される。そう思わなければTOBを急ぐ理由も、上場廃止に突っ走る理由も、理解しにくい。
(4)もしそうであれば、富士フイルムは新薬開発情報を買収株価に加算するべきだろう。その時初めて一般株主と平等な情報を共有したことになる。
(5)もし「インサイダー情報」を隠してTOBとTOB価格を決定したとすれば、TOBそのものが大がかりな「インサイダー取引」と見なされる可能性がある。

 II. 住友金属鉱山と商品相場。

チャート。金、銅、ニッケルの週足。(2/21現在)
説明は次回に。