2008/2/18

  2008年2月18日(月)
  富山化学TOBの行方を大胆に予想する。

(一)株主の怒りと心配。

(1)富士フイルムのTOB宣言を受けて私の電話は2日間鳴りっぱなし。メールも過去最大であった。以下に株主の怒りと心配の声を再録したい。
(2)富山化学は久しく無配である。富山化学は久しく赤字を繰り越している。それでも株式を持ち続けて来たのは、富山化学の未来に大きな夢を抱いているからである。
(3)ここまではすべての株主に共通しているが、その後に怒りと心配の声が続いている。すなわち、以下の如くである。
  1. 私はなぜ今売却を強制されるのか。
  2. なぜ今売らなければ、上場廃止によって売買の機会を失うのか。
  3. 鳥インフルエンザの特効薬の開発を目前にして、今、なぜ、その果実を手にする機会を奪われるのか。
  4. 新参の富士フイルムは長年の株主の夢を強奪する権利があるのか。
株主にこのような混乱と怒りをもたらした責任は東京証券取引所の一連の措置にある。

(二)混乱を招いた東証の措置。

(1)東証はTOB宣言があると、即日特設ポストに移す。
(2)東証はさらにTOBが成立した場合は、臨時株主総会又は取締役会を開いて上場廃止を決議すると警告する。
(3)このような東証の説明を見た株主は、TOBに応じなければ売買の機会を失ってしまうという焦りに駆られる。そのために怒りと心配の相談が私に殺到したのである。
(4)私は次のように答えた。
(5)第1に、富士フイルムが3月18日までに3分の1以上の株式を集めることができなければTOBは成立しない。
(6)第2に、富士フイルムは広範な大衆を顧客とする企業だから、仮にTOBが成立した場合でも、上場廃止を強行して社会的な反感を招くとは、私には思えない。
(7)しかし富士フイルムは、合法的な手続きを踏めば上場を廃止することができる。
(8)その場合、株主は富士フイルムのTOBを拒否する以外に対抗策がない。
(9)私は、(後述するように)TOBが成立しない可能性が高いと思うから、3月18日までは静観されたらどうかとお伝えした。

(三)TOBこそ株主・投資家にとって最大のチャンス。

(1)直近では、シティバンクが日興證券を買収したが、買収株価が安すぎると反対する株主が多く、株価を大幅に引き上げてようやく成立した。
(2)アメリカではマイクロソフトによるヤフーのTOBが進行している。マイクロソフトはいきなり時価の50%上値でTOBを申し入れたが、ヤフーはそれでも評価が低すぎるとして拒否した。好機と見てマードックが提携を申し入れたが、マイクロソフトも引き下がらないだろう。交渉がもつれるたびにヤフーの企業価値が上昇する。
(3)これこそが株式市場の活力であり、株式投資の醍醐味である。
(4)日本の投資家は欧米のTOBの修羅場を経験していないために、東証の措置を受けて意気地なく持ち株を手放す傾向が強い。
(5)日興證券のTOBでは外国人株主が強硬に反対して買収株価を大幅に引き上げさせた。
(6)日本の株主は外国人投資家の主張と粘り腰に学ぶべきである。

(四)富士フイルムと富山化学は投資家の声を聞け。

(1)私に寄せられた株主の声をもっと具体的に紹介したい。
(2)A氏いわく。2年前にアメリカでガレノキサシンの製造認可が降りたとき、株価は1,400円を記録した。しかしライセンス供与先のシェリング・プラウ社が申請を取り下げたために株価が急落した。その後、申請取り下げはシェ社の社内事情が原因とわかり、昨年10月にジェニナック(欧米ではガレノキサシン)は日本国内で発売にこぎ着けた。欧米でも発売が近いという。ガレノキサシン(日本名ジェニナック)だけで1,400円の株価を記録したのだから、その後の大型4新薬の開発進捗状況から見て、最低1,400円の買収価値が妥当である。
(3)B氏いわく。富山化学自身の発表によれば、新型鳥インフルエンザの特効薬 T-705 は5月までにフェーズ2を終了する。フェーズ2ではタミフルとの比較臨床も行う。ここへ来て中国やインドネシアでヒトーヒト感染を疑われる新型鳥インフルエンザが発生しており、パンデミック(世界的大流行)の兆しが濃厚である。そんなときにタミフルを凌ぐ T-705 が発売となれば、株価3,000円以上が必至となる。
(4)C氏いわく。これまで富山化学と無縁であった富士フイルムが突然TOBを仕掛けたのは、富山化学から重要なインサイダー情報を入手したのではないか。
(5)D氏いわく。TOBに応募しなければ売買の機会を失うとすれば、株主は久しく期待してきた T-705 の成功を見届けることができない。新参の富士フイルムが、わずかばかりの手切れ金で株主の期待を奪う権利があるのか。
(6)E氏いわく。パンデミックに発展すれば、株式市場は大混乱に陥り、富山化学が唯一絶対のヘッジ銘柄となる。自分はパンデミックのリスクをヘッジするために富山化学を保有してきたが、なぜ今、富士フィルムはヘッジの権利まで奪うのか。
(7)F氏いわく。フェーズ2入りが近いアルツハイマー治療薬は人類待望の不老長寿をもたらす。発売となれば年商1兆円を超える超大型新薬となり、株価1万円以上が期待できる。その夢も奪われるのか。
 等々で、私はどの主張にも大いに共感する。

(五)複数企業による富山化学争奪戦も。

(1)これまでに富山化学から新薬のライセンスを導入したシェリング・プラウ社、ロシュ社、アステラス製薬等は、単品で、しかも販売地域限限定で、それぞれ数百億円を投資した。
(2)また富山化学は先週、T-705 やアルツハイマー治療剤のライセンス導出交渉をすべて打ち切り、今後は全面的に自社開発、自社販売に転換すると発表した。
(3)前記の製薬大手やライセンス交渉を打ち切られた製薬大手は富山化学の新薬開発力を熟知しており、富士フイルムのTOB資金がわずか700億円と知れば、好条件を提示してTOBに参入する可能性がある。
(4)世界中の製薬会社が今、2010年問題を控えて新薬のライセンス取得にしのぎを削っている。内外の投資ファンドもまた富山化学買収の好機を見逃さないだろう。
(5)富山化学の争奪戦は今始まったばかりかも知れない。

(六)TOB合戦は始まったばかり。

(1)先週末に富山化学は873円台で寄りついた後、880円に肉薄した。下値には100万株単位の買い玉がびっしりと這わされているのに対して、上値の売り玉は10万株単位に過ぎなかった。
(2)877円まで買い進んだ手口は、第3勢力の出現を予感させる。
(3)富士フイルムのTOB期間は2月19日から3月18日までである。その間に株価が880円を突破すれば、TOBは事実上成立不能となる。
(4)そのときは日興証券を買収したシティバンクのように、富士フイルムが買収条件の引き上げを迫られるだろう。
(5)折からインドネシアでは連日鳥インフルエンザが猛威を振るい、死者が急増している。T-705 の開発を目前にした富山化学にプレミアムがつくのは当然で、株主はさらに買収後の上場維持を要求するだろう。
(6)そもそも1,000億円単位の年商が確実に期待できる大型新薬を4品目もそろえた富山化学の企業価値を、たった880円と評価した富士フイルムは厚かましすぎた。低すぎる指し値が株主の反感を呼び、新たな思惑を誘発するだろう。
(7)一波は万波を呼ぶ。私はTOBのドラマは今始まったばかりだと思う。沈滞した東京市場で、富山化学の相場付きは早くも熱気をはらんでいる。
(8)株主は最低880円が保証されているのだから、3月18日までは株を枕に高見の見物を決め込むのが得策だろう。
(9)私はもちろん、白馬の騎士の登場を待望している。

(七)TOBに関する私見。

(1)私は加ト吉と富山化学を割安と見て継続して推奨していたところ、相次いでTOBに遭遇した。望外の的中率であるが、私と同じ価値観を持つ企業が実在したのである。
(2)TOBはすべての株主が売買の決断を迫られる株式市場最大の「事件」である。
(3)東京市場は株価の割安さから、今後必ず外国資本による買収の草刈り場となる。
(4)買収は企業価値の評価をめぐる、金銭を賭けた真剣勝負である。
(5)東証は真剣勝負に対して公平かつ公明正大な土俵を準備する責任がある。
(6)富山化学のTOBはこれから始まる大買収時代の試金石となる。投資家は成り行きを刮目(かつもく)し、今後の株式投資の参考とされたい。