2008/2/12

  2008年2月12日(火)
  景気後退論に逆行する3銘柄。
  富山化学の近況。

(一)住宅、金融、消費を代表する3銘柄の逆行高。

トール・ブラザーズ
シティグループ
ウォルマート

(1)世界の株式市場は弱気一色である。しかし少数ながら景気後退論に逆行高している銘柄もある。
(2)チャートは上からトール・ブラザーズ(住宅首位)、シティグループ(銀行首位)、ウォルマート(小売り首位)の日足である。
(3)3社は住宅、金融、小売りのトップ企業で、同じ業種の銘柄もほぼ同一歩調をたどっている。
(4)3社はアメリカの景気後退を示す業種を代表しているから、もしこのまま上昇傾向を維持すれば、一連の景気てこ入れ策の成功を先見する指標となる。

(二)G7財務相、中央銀行総裁会議から。

(1)第1に、米ポールソン財務長官は公的資金の投入を否定し、民間による自己資本の充実を促した。モノライン問題についても、民間企業による解決を優先している。
(2)ポールソンは銀行に対する財政資金注入論を否定した。それもそのはずで、世界1のシティバンクは14兆円の巨大な自己資本を維持しており、2.5兆円に達する評価損の償却にびくともしない財務体質を備えている。その他の主要銀行も政府系ファンドの資本注入を受けてBIS基準8%をクリアしており、銀行の連鎖倒産に発展する可能性はほとんどない。
(3)日本の金融不況時に比べると、銀行の財務体質に天地の差がある。ポールソンの政府不介入論の背景にはアメリカの金融機関の健全性に対する自信と信頼感がある。
(4)一方で、ブッシュ大統領はGDPの1%に及ぶ税金還付を提案し、議会は異例の早さで承認した。
(5)さらに、バーナンキFRB議長は短期間に4度にわたり政策金利を合計2.25%切り下げた。その上で必要に応じて必要な政策を講じると表明している。
(6)すなわち米国は企業に自己責任を要求する一方で、政府と中央銀行は財政、金融政策を動員して景気回復を図るという王道を歩んでいるのである。

(三)金融政策のインパクトは大きい。

(1)アメリカでは住宅ローンの金利が税金と相殺される。例えば300万円を納税している人は支払利息が300万円となるように住宅ローンを組めば税金が全額還付される。
(2)FRBの金利引き下げを受けて住宅ローンの利息が300万円から200万円に低下すれば、ローンを増額して利息が300万円になるように借り換える。
(3)増加した借金の100万円はより大きな住宅を買うか、別荘を買うか、消費するか、株式を買うか、に使う。
(4)従って、政策金利の引き下げは早晩必ず住宅需要を増やし、消費を刺激する。
(5)アメリカ人は借金まみれで消費しすぎるという批判も的はずれである。
(6)日本の住宅ローンは完済までに25〜30年を要するが、アメリカでは全額を元本の返済に充てるから10年で完済する。
(7)その結果、アメリカ人は平均してローンの4倍の財産を蓄積している。アメリカ人にとって住宅ローンで家を買うことは財産作りの王道である。
(8)世界ダントツの個人財産を築いたアメリカ人が世界1金を使うのは当然である。

(四)チャートの3銘柄は株価反騰の先行指標。

(1)3銘柄がすでに大底を入れたか、さらにだめ押しを入れるかは即断できないが、私は底値圏を脱出する可能性があると思う。
(2)株価が景気の半年先を先見するとすれば、現在は昨年8月に始まった暴落の到達点となる。
(3)景気てこ入れ策が半年先に結実するとすれば、現在が上昇相場の起点となる。
(4)チャートの3社の抵抗力に注目したい。

(五)富山化学。

(1)富山化学は2月8日付で、抗リュウマチ剤「T-5224」がフェーズ2(臨床第2相)に入ったと発表した。
(2)リュウマチは激痛を伴う治療不能の難病で、白人に多い。開発に成功すれば世界初の根本治療剤となる。
(3)それゆえ独立行政法人科学振興機構の委託開発制度の支援を受けている。
(4)昨年、フェーズ1終了時にロシュ社に海外の研究、開発、販売の権利を供与した。ライセンス料は総額3.7億ドル(400億円)の大型で、ロシュ社の期待の大きさが伺われる。ただし進捗段階に応じて決済するマイルストン方式で、今3月期の受け取り分は不明である。

(六)続・富山化学。

(1)私は過去2年間、富山化学の新薬開発を追跡してきた。当初は半信半疑であったが、主力4薬品の開発状況は昨年までにそろってフェーズ1をクリアした。それだけでも驚異的な成功率であるが、ジェニナックが先頭を切って昨年10月、発売にこぎ着けた。今年は T-705 とリュウマチ治療剤が相次いでフェーズ2に入った。T-817MA もフェーズ2入りが期待される。以下にひと口コメントを加えておきたい。
(2)ジェニナック(欧米ではガレノキサシン)は、一時はライセンス供与先のシェリングプラウ社が製造申請を取り下げる波乱があったが、シェ社の社内事情が原因と判明した。2年後には日米欧そろい踏みの発売となり、大型抗生物質に発展するだろう。
(3)新型鳥インフルエンザに有効と期待される T-705 は、フェーズ2でタミフルとの比較臨床も行う。米国では3月にフェーズ1が終了し、6月にフェーズ2に入る予定である。順調に行けば6月までに米日両政府から開発資金援助を受ける予想で、ライセンス供与も具体化する見込み。
(4)アルツハイマー型認知症治療剤 T-817MA は成功した場合の市場規模が特に大きい。アルツハイマーの進行を止める薬品はあるが、治療薬はまだない。世界の製薬大手が開発競争にしのぎを削っているが、エーザイ等のライバル各社がフェーズ1で敗退した中で、フェーズ2入りが射程に入っている。
(5)新薬開発はきわめてリスクが高い。富山化学はそのリスクに挑戦する研究開発型企業である。強弱観が対立するのは当然であるが、少なくとも今日現在、大型4新薬の開発はそろって順調である。