2008/2/4

  2008年2月4日(月)
  新しい神話と伝説が生まれるとき。
  今、あえてシティグループに注目。

(一)金融危機、攻防の焦点。

(1)サブプライムローンの破綻に始まった金融危機は、攻防の焦点が3度変化し、その都度、株価の下落を加速させた。しかし私は金融機関もまた危機的状況を着実に乗り越えて来たと思う。
(2)第1段階(昨年7〜9月)はサブプライムローンの破綻に始まった。しかしサブプライムローン自体は現在、政府の財政支援が奏功して低金利ローンへ借り換えが進み、危機的状況をほぼ脱出した。
(3)第2段階(昨年10〜12月)では破綻説が正常な資産担保証券全体に飛び火した。日本の国債よりも格付けの高いAA格債でさえ30〜40%急落し、C格債に至っては最大88%も大暴落したから、米欧の銀行・証券が軒並みに巨額の評価損を計上した。しかし捨てる神あれば拾う神ありである。危機に陥った金融機関は政府系投資ファンドやオイルマネーの出資を受けて自己資本を充実し、すでに倒産の危機を乗り越えた。
(4)1月に入ると第3段階の金融不安説が浮上した。すなわち債券の配当保証を行うモノライン大手、MBIAとアムバックの破綻説が浮上し、金融機関が新たに100兆円単位の評価損をかぶるという噂が乱れ飛んだ。しかし渦中の2社は自己資本を充実し、危機を回避する目途をつけたと釈明している。真偽は不明で、決着はまだついていない。
(5)以上が過去半年間に3度発生した金融危機の焦点である。
(6)攻防の焦点を守る側の金融機関から見れば、第1段階のサブプライムローン問題は発生源を断つまでに6ヶ月を要した。第2段階の資産担保証券の暴落は3ヶ月で一気に底値に達した。第3段階のモノライン問題は1ヶ月で解決する可能性がある。
(7)第2段階と第3段階は弱気筋が積極的に悪材料を拡散し、株価を売り崩した。私は、資産担保証券は実態を超えて下げすぎたと思う。この間に守勢に立たされた金融機関も体力を補強したから、次の第4段階では主客が転倒し、弱気筋が資産担保証券の買い戻しを迫られると思う。
(8)「株価は株価に聞け」という格言がある。次項では世界最大のシティバンクの株価に即して危機の行方を検証したい。

(二)抵抗するシティ株。

CITIBANK

(1)チャートはニューヨーク市場のシティグループの日足である。シティ株は日興證券を完全買収した後、東証にも上場している。
(2)直近ではモノラインが金融危機説の最大の焦点となっているが、最大の被害者と見られるシティ株は、意外な抵抗力を示している。
(3)チャートは1月30日現在の日足であるが、週末の2月1日には29.69ドルで引けた。つれてニューヨークダウも上昇した。
(4)私はモノライン以上の金融危機説があるとは思わないから、1月が銀行株の底値になった可能性があると思う。

(三)日本の銀行に好機。

(1)三井住友銀行は先週、第3四半期の決算でサブプライム関連の評価損990億円を計上した。しかし同時に問題証券の90%を償却したとコメントしている。すなわち将来保有証券が破綻して評価がゼロになっても、新たに発生する損失は10%の99億円に過ぎない。三井住友銀行の金融不安は今3月決算をもって終わる。
(2)一方、日本で最大の損失を計上したみずほ銀行は、今3月期通期で3,000億円に達する見込みだと表明した。赤字の中には今後予想されるすべての評価損を含めたという。事実であればみずほ銀行の金融不安も今期で終る。
(3)軒並みに1兆円を超える欧米の大手銀行の赤字と比べれば、日本の大手8行の赤字は無視できるほど小さい。
(4)それどころかみずほ銀行は米メリルリンチに出資し、他の大手2行も米国の金融機関に出資するという情報がある。
(5)ユダヤ系資本が欧米金融市場の支配力を強化するにつれて孤立感を深めた日本の銀行にとって、資本出資は巻き返しの好機となる。私は英断を支持し、期待したい。

(四)金融機関の評価損が評価益に逆転する可能性。

(1)昨年10〜12月決算で欧米の金融機関は巨額の評価損を計上したが、同時に巨額の増資によって自己資本比率8%以上を堅持し、少なくとも倒産のリスクは消えた。
(2)世界の大手金融機関が連鎖倒産の危機を凌げば、資産担保証券もまた破綻の危機を回避する可能性が高まる。
(3)資産担保証券の相場が底入れすると、すでに赤字処理した評価損の一部が評価益に逆転し、金融機関の赤字決算が黒字決算に逆転する可能性が高まる。しかも、赤字額が大きかった金融機関ほど黒字額も大きくなる。
(4)もし私の仮説が現実となれば、銀行株は底入れし、世界の株価が底入れする。

(五)米国の企業業績は金融機関次第。

(1)昨年に続いて今年も米国の企業業績が悪化するか否かがエコノミストの大きな論点となっている。
(2)米国では金融は圧倒的な巨大産業である。昨年米国の企業業績を悪化させた原因の大部分は金融機関の巨額の赤字にあり、これを除けば増益であった。
(3)今年も企業業績悪化論が圧倒的に強いが、私は金融機関の決算が黒字に逆転し、全産業ベースの増益に貢献する可能性があると思う。

(六)神話と伝説が生まれる時。

(1)1980年代の金融危機でファンドマネジャーのピーター・リンチは赤字に転落して暴落した住宅ローンのフレディマックに集中投資した。
(2)フレディマックは倒産を免れて反騰に転じた。株価20倍の大当たりを取ったピーター・リンチは一躍勇名を轟かせたばかりか、当時2階建てハンバーグを売り出して人気を集めていたマクドナルドにちなんで「トゥエンティーバーガー(20階建てのハンバーグ)」の尊称を奉られた。
(3)同じときシティバンクも窮地に陥ったが、会長自らサウジアラビアに飛んで旧知の王子に増資の引受を依頼した。その後株価は44倍に大暴騰し、サウジアラビアもまたアラビアンナイトの錬金術のような巨利を手にした。
(4)さて今、世界の金融機関は金融危機に遭遇して政府系ファンドやオイルマネーから巨額の資本注入を受けた。気息えんえんの金融機関について、今はどんな楽観論を述べても耳を貸す人が少ないが、株式市場の神話や伝説はこんな時に生まれる。
(5)今、あえてシティバンクと銀行株に注目したい。