2008/1/21

  2008年1月21日(月)
  2008年を占う
  わが楽観論のシナリオ。

(一)果てしない悲観論の連鎖。

(1)悲観論は今、仮説を積み重ねて果てしなく連鎖し、増幅している。
(2)サブプライムローンを組み込んだ資産担保証券の破綻問題はとっくに通り過ぎて、サブプライムローンとは無関係の正常なローンで組成したAA格債ですら30〜40%も暴落した。AAは日本の国債を上回り、トヨタに匹敵する高い格付けである。
(3)さらにカードローンや自動車ローン等、すべてのローンで破綻が広がり、世界中の市民が日常生活で用いているカード社会そのものが崩壊するという悲観論さえも横行している。
(4)こうなると金融不況を超えた恐慌である。果たしてそうだろうか。
(5)歴史上の恐慌は例外なく銀行の連鎖倒産をきっかけに始まった。
(6)しかし現状を見れば、審査の厳格な政府系ファンドが続々と赤字決算の金融機関に出資している。最も保守的な日本のみずほ銀行さえ資本出資に参加し、三菱UFJ、三井住友も追随する構えである。すなわち投融資のプロが大手金融機関の連鎖倒産は起こらないと確信しているのである。リスクを取る投資家の行動はエコノミストの口先の論評よりもはるかに重いと私は思う。
(7)1920年代の恐慌以後、政府と中央銀行は恐慌を克服するノウハウを確立した。私は、サブプライム問題程度の金融危機を乗り切ることが困難だとは思わない。
(8)過去の金融危機と比べると、今回は圧倒的な好条件に恵まれている。第1に、BRICsの台頭で世界経済は新たな拡大発展の時代を迎えた。第2に、オイルマネーと新興国を中心に400兆円に達する空前の過剰流動性ががっちりと下支えしている。
(9)以下は私の楽観論のシナリオである。

(二)大いなる悲観は楽観に通じる。

(1)日本の株式市場は悲観論にあふれている。しかし悲観論がきわまった時、セリングクライマックス(大底)を形成する。
(2)アメリカのセリングクライマックスは常に大商いのうちに形成される。しかし日本のセリングクライマックスは通常薄商いのうちに形成される。アメリカは男性的であり、日本は女性的である。
(3)先週、新興市場は極端な薄商いのうちに急落したが、一部市場は連日まれに見る大商いを伴って男性的な急落を演じた。
(4)私は、東京市場がセリングクライマックスに近づいたと思う。男性的ゆえに、底入れの徴候は随所に現れている。
(5)過去6ヶ月間に信用取引の残高は4.4兆円から2.9兆円に激減した。先週は記録的な大商いが続いたから、さらに急減したと思われる。投資家心理は陰の極に達したのではないか。
(6)7月高値の期日売りは今週で山場を過ぎる。
(7)移動平均線とのかい離率、純資産倍率、配当利回り等、すべての指標が歴史的な安値圏を示している。
(8)円はこのところすべての通貨に対して上昇している。日本では「円高は株安」という不可解な悲観論が横行しているが、世界中で自国の通貨高を悲観する国は日本だけである。私は円安こそ日本株独歩安の原因で、円高傾向が鮮明となれば外国人買いが復活すると思う。
(9)先週末には日経平均が暴落し、長大な下ひげを伸ばした後、陽線で引けた。多くの銘柄が同じ経過をたどった。重要な変化の徴候である。

(三)激増する過剰流動性。

(1)私は終始一貫して、景気よりも資金の需給関係を重視している。昨年はオイルマネーと政府系ファンドの急増で民間の過剰流動性が400兆円に達した。
(2)一方、欧米の中央銀行も繰り返し過剰流動性を投入し、必要な資金が必要な金融機関にピンポイント行き当たるためのシステムを構築しつつある。
(3)過剰流動性は、現在は商品市場に向かっているが、これほど巨大な資金量をこなしうる市場は株式市場と債券市場以外には存在しない。以下に過剰流動性の行方を検証したい。

(四)株式に向かい始めた過剰流動性。

(1)これまで民間の過剰流動性は主として石油や金や非鉄や穀物等の商品市場に流入していたが、昨年末に突然、欧米の大手金融機関の株式に向かった。
(2)主として政府系投資ファンドが、1兆円単位で第三者割り当て増資を引受けたのである。
(3)政府系ファンドが銀行株に集中投資するに際しては、当然経営トップによる詳細な経営内容の開示があったと推定される。
(4)日本のみずほ銀行もメリルリンチの第三者割り当て増資に参加した。東京三菱と三井住友も欧米金融機関の増資を引き受ける構えである。その理由は、他のいかなる融資案件よりも投資効率が高いからだという。
(5)もし倒産リスクが乏しければ、株価が暴落した現在は銀行株投資の千載一遇の好機となる。
(6)一方、もし金融機関が必要な自己資本を必要なだけ調達できれば、倒産のリスクはかぎりなく縮小する。
(7)歴史上の恐慌は例外なく金融機関の倒産に端を発している。金融機関の連鎖的倒産が起こらなければ今回の金融危機の解消は、単に時間の問題となる。
(8)昨年の金融機関の損失は1,000億ドル(11兆円)と報じられているが、現在の金融機関の収益力と自己資本の水準から見ればたいした負担にはならない。

(五)過剰流動性が債券に向かう時。

(1)昨年欧米の金融機関が計上した赤字額のうちサブプライムローンに関与した赤字は一部分で、過半はサブプライムローンとは無関係の資産担保証券であった。
(2)中でもAA格債が30〜40%も暴落した。償還まで持てば必ず回収できる債券が40%も暴落したのだから、B格債は60%、C格債は80%も大暴落した。
(3)異常な暴落の背景には「空売り」による売り崩しがある。例えば空売りで大もうけしたゴールドマンサックスは昨年第3四半期の決算でただ1社、史上最高益を計上した。ユダヤ資本を知らなければ金融市場の裏面は理解できないので、次にその特異性にふれておきたい。
(4)ユダヤ人は母国を失って3500年間も世界各地を流浪し、迫害を受けながら、金貸しで糊口を凌いだ。キリスト教徒とイスラム教徒は戒律によって金貸しを禁じられていたから、歴史的に金貸しはユダヤ教徒の専業であった。今やユダヤ人は欧米の金融市場を完全に支配しているが、愛国心に乏しく、金もうけ至上主義の遺伝子は変わらない。
(5)日本でも、ユダヤ資本は小泉・竹中時代の構造改革に乗じて暴落した株式と不動産を一手に買い占めて大もうけした。現在も日経平均を売り崩し、ノックアウトで大もうけしているという噂が広がっているが、勘ぐれば、彼らは弱気論を振りまいて実は買い戻しを進めた可能性がある。
(6)そもそもサブプライムローンを証券化して金融不安を引き起こした張本人が、今や空売りで大もうけしているのだから、ユダヤ人のドライな精神構造と投資行動はウエットな日本人の想像力をはるかに超える。彼らは強気から弱気に転じたが、一夜にして強気に戻る柔軟性を備えている。

(7)さて一方、米FRBは金融不安を抑制するために政策金利を今月中に0.5%引き下げる構えである。国債相場は上昇一途で、利回りは3%台半ばに低下している。
(8)そうなると資産担保証券の相対的な割安はますます鮮明となる。金融機関の破綻観測が後退すれば、過剰流動性の一部は超高利回りの資産担保証券に向かうだろう。そうなると空売り筋は買い戻しを迫られるから、反騰が鮮明になる。
(9)構造改革時に日本の銀行が赤字に計上した不良債権が、その後優良債権に逆転して利益が急増したように、昨年資産担保証券の評価損を償却した欧米の金融機関は今年、評価損が評価益に逆転する可能性がある。
(10)以上が私のサブプライム問題に対する楽観的シナリオである。

(六)私の歴史認識。

(1)現在の金融市場の弱気論は恐慌論に近い。
(2)しかし自由主義社会は1920年代を最後に、恐慌を克服するノウハウを確立した。
(3)20世紀後半には社会主義国家が崩壊し、東西対立が解消した。
(4)21世紀に入るとBRICsが台頭し、世界経済は新たな成長拡大期を迎えた。
(5)金融市場の資金量は拡大一途だから、資源と株式と不動産は短期的な波乱を乗り越えて上昇過程をたどるだろう。
(6)米国政府が破綻債権を全部買い上げれば金融不安は即座に消滅する。そうしないのは自由経済社会に不可欠な自己責任の大原則を守るためである。周期的に発生する金融不安は自由な市場経済を維持するための代償、或いはガス抜きだと私は思う。
(7)私はサブプライム問題よりも新型鳥インフルエンザの感染爆発の方が怖いと思う。人類はサブプライム問題程度の金融不安を克服するノウハウを蓄積しているが、パンデミックの恐怖を回避するノウハウはまだ存在しないからである。