(一)貿易黒字国に転換した米国。 |
(1)驚くべきことに昨年来、米国の貿易収支が久々に、実に久々に黒字に転じた。新興国とヨーロッパ向けに輸出が好調なばかりか、受注残も伸びている。米国経済は内需の落ち込みを輸出が補う可能性が生まれた。
(2)昨年末には、エコノミストは一致して「米国の成長率が鈍化すれば中国やインドや日本は輸出市場を失い、成長が鈍化する」と主張していた。
(3)しかし事実は正反対で、アジアやヨーロッパの景気拡大が米国の輸出を増やし、米国景気を牽引する時代が来たのだ。
(4)事実、新興国群の成長力は衰えるどころか、雇用が増えて、賃金が上昇し、国内消費が急拡大している。新興国は消費主導の理想的な景気拡大期を迎えた。こうなれば景気は簡単には腰折れしない。
(5)中でもロシアとブラジルは資源相場の高騰で貿易黒字が急増し、アジア地域を上回る高度成長時代に突入した。
(6)かくして安定拡大期を迎えた新興国群は、世界景気を牽引する主役に躍り出た。
(7)日本企業の対外投資も、米国中心から中国、インド、インドネシア、タイ、ベトナム、ロシア、ブラジルへと広範囲に拡大している。アメリカがくしゃみをしたら日本は風邪を引くという悲観論は昔話となった。
(8)今や世界経済の撹乱要因はサブプライム問題一点である。そのサブプライム問題も最終局面を迎えたと私は思う。次項で直近の状況を検証したい。
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(二)サブプライム問題と世界の金融市場。 |
(1)米国経済の圧倒的な競争力は、金融市場と金融機関にある。
(2)米国がいくら巨大な貿易赤字を垂れ流しても、貿易黒字国は、稼いだドルを米国が構築した巨大な金融市場で運用する以外に有効な方法がない。米国が垂れ流したドルは世界経済を潤し、米国に回帰する。
(3)しかし昨年後半に、サブプライム問題が突発した。これまでも米国では金融ノウハウの発達が急すぎるために周期的に破綻を来したが、米国政府とFRBもまた危機に直面して破綻を修復するノウハウを構築して来た。問題は修復に必要な時間である。
(4)私は、弱気論者は今回の破綻で次ぎの二つの革命的な環境変化を見落としていると思う。
(5)第1に、500兆円と推定される史上空前の過剰流動性の存在である。問題の発生源である米国のニューヨークダウは破綻後も史上最高値更新を交えて前年比プラスを維持した。また株価急落局面でも、過剰流動性は商品市場になだれ込み、大半の商品が史上最高値を大幅に更新した。
(6)第2に、新興国家群の成長力は陰りを見せるどころか、存在感を高めた。株価に至っては50%高、30%高がザラであった。すなわち新興国家群は欧米先進国から経済的に自立し、圧倒する実力を蓄えたのである。
(7)さて、米国の金融機関はリスクの高いサブプライムローンを、健全なローンに少しだけ組み込み、デリバティブのドレッシングをかけて世界の金融市場にばらまいた。
(8)そのために破綻が表面化すると、誰が買った商品に何%のサブプライムローンが組み込まれているかがわからない。疑心暗鬼に陥った金融市場で、類似するすべての資産担保証券が実態価値を大幅に割り込んで大暴落した。
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(三)続・サブプライム問題と世界の金融市場。 |
(1)しかし下げすぎた債券は戻るのが道理である。私はサブプライム問題解決の条件は整ったと思う。 (2)第1に、米国、EU、イギリス、スイス、カナダの中央銀行が協調して必要な資金をピンポイントで金融機関に融資する体制を固めた。FRBは年初に株価の急落を見るや即座に6.5兆円の過剰流動性を供給し、さらに必要な対策を講じると表明した。
(3)第2に、米国政府は昨年末、サブプライムローンの契約者を直接救済するために金利を5年間低水準に据え置く政策を発表した。
(4)第3に、オイルマネーや国営の投資ファンドが米欧の大手金融機関が発行する巨額の第3者割り当て増資を競うように引き受けた。彼らは金融機関のリスクを独自に調査した上で、好機と判断したのである。特に国営ファンドは桁違いの潜在資金量を持ち、戦略的視点から大手金融機関の完全買収を狙っている。
(5)自己資本の補強と緊急融資に救われた金融機関は問題債券を市場でたたき売りする必要がなくなる。一方で空売り筋は買い戻しを迫られる。
(6)かくして、私は金融機関の損失は昨年10〜12月期をもって最悪期を脱すると思う。金融機関の損失の大半は評価損だから、市況が回復すれば赤字幅は縮小する。
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(四)続々・サブプライム問題と世界の金融市場。 |
(1)私はサブプライム騒動を通して、サブプライムよりもBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)が率いる新興国家群の台頭に改めて強い感銘を受けた。
(2)新興国家群の人口は地球人口の3分の2を占めている。今や貧困にあえいでいた圧倒的多数派が台頭し、経済的に自立したのである。
(3)彼らが欧米の金融市場で発生した危機を救う可能性がある。その圧倒的パワーを軽視する人には、日本はもちろん世界の未来が見えない。
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(五)過剰流動性の行方。 |
(1)オイルマネー、国営の投資ファンド、中央銀行がばらまいた過剰流動性で、金融市場には500兆円に達する史上空前の過剰流動性が渦巻いている。
(2)500兆円のうち400兆円が新興国家群の資金である点に注目されたい。
(3)FRBが新年早々に6.5兆円を放出し、サウジアラビア政府が100兆円の政策投資ファンドを組成しようとしている。過剰流動性は増勢一途である。過剰流動性の最大の発生源である石油相場は100ドル大台乗せをうかがっている。
(4)過剰流動性はこれまでは商品市場になだれ込んだが、市場規模が小さくてさばききれない。500兆円の資金を受け入れることができる市場は株式以外に存在しない。500兆円は世界第2位の日本の上場株式を全部買い占めることができる資金量である。
(5)私は、巨大な過剰流動性が存在する限り世界的な株価の高騰は必然で、サブプライム問題の解決にめどがたてば、急騰すると思う。
(6)サブプライム対策は成功するまでやるのだから、解決は時間の問題である。先行指標は先ず金融株に現れるだろう。 |
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(六)外国人買いで日本株は大幅高する。 |
(1)弱気局面では、マスコミは弱気の材料ばかりを探す。しかし住宅不況ばかりが報じられる米国でも、ニューヨークのマンハッタンでは、昨年も住宅価格が30%も高騰し、ハーレムに至っては50%も暴騰した。マンハッタンの住宅価格は世界で一番高額だから時価総額で評価すれば全米の住宅価格の下落のかなりの部分を補う金額となる。
(2)不振がはやされた日本の住宅市場でも、新年早々大東建託に9,000億円のTOBがかかった。
(3)大東建託に比べれば、住友金属鉱山の時価総額1.1兆円はべらぼうに安い。昨年世界の非鉄業界で成立したTOBは4〜5兆円の規模であった。住友金属鉱山には、いつTOBが仕掛けられてもおかしくない。
(4)昨年独歩安を演じた日本株は、PER、利回り、含み資産等、どの指標をとっても歴史的な低水準にある。流動性が高い東京市場の上場企業は投資と買収の両面で、外国資本の草刈り場となる可能性がある。
(5)年初にいきなり円相場が上昇した。昨年はアジア通貨が全面的に大幅高した中で円だけが下落した。円が底値に達したと見れば、外国人の日本買いが再燃するだろう。
(6)昨年は円と日本株が世界で独歩安を演じたが、今年は円と日本株が先進国市場の中で独歩高を演じる可能性がある。 |