2007/12/17

  2007年12月17日(月)
  富山化学の研究。
    新型鳥インフルエンザとT-705。
    2010年問題と新薬開発状況。

先週、株主に送付された中間決算報告書は「研究開発型企業として世界基準の新薬を継続的に創出し続ける」と述べて、これまでになく自信にあふれていた。富山化学のコメントに注釈と私見を加えたい。さらに新型鳥インフルエンザで初めてヒトーヒト感染が疑われるケースが出たので、T-705の開発状況を補足した。

(一)ニュータイプのキノロン系抗菌剤「T-3811」
   (商品名ジェニナック錠、一般名 ガレノキサシン)。

(1)10月に国内で発売を開始した。
(2)国内ではアステラス製薬にライセンス供与。大正富山と共同して販売。
(3)欧米では、ライセンス導出先のシェリング・プラウ社が2年以内に発売予定。シェ社からライセンス料3.25億ドルのうち、未払いの2.45億ドル(270億円)を取得予定。
(4)薬効を小児用等に拡大へ。
(5)ピーク時年商2,500億を予想。

(二)経口用抗リュウマチ剤「T-5224」。

(1)ロシュ社と世界的な研究、開発、販売で合意。
(2)ライセンス料は総額3.7億ドル(400億円)。
(3)フェーズ3入りが近い。

(三)経口用抗インフルエンザ剤「T-705」。

(1)一般のインフルエンザはもちろん、新型鳥インフルエンザに最も有効と期待される特効薬。
(2)厚労省から優先対面助言品目に指定された。厚労省が開発の緊急性を認めたため、最優先で審査される。
(3)国内ではフェーズ2の開始が近い。
(4)米国でも、日本と平行してフェーズ1継続中であるが、人種ごとに臨床を勧めるために長引いている。
(5)緊急を擁するためにフェーズ2とフェーズ3は同時に行うという情報もある。
(6)日米両国の政府に開発資金の支援を申請している。
(7)複数の製薬会社とライセンス導出を交渉中である。
(8)開発に成功すれば、政府備蓄用だけで6,000億円の潜在需要がある。

(四)アルツハイマー型認知症治療剤「T-817MA」。

(1)フェーズ2開始が近い。
(2)ライセンス導出交渉が進行中。
(3)認知症「治療剤」には巨大な潜在市場がある。

(五)抗真菌剤「T-2307」。

(1)フェーズ1が近い。
(2)第5の新薬候補、今回の決算短針で初登場。

(六)武田薬品の2010年問題(12日付日経)。

(1)主力薬の特許が相次いで切れる2010年以降の収益力を確保するために、高脂血症、ガンなど5つ以上の疾病領域で外部から新薬候補物質を導入する。
(2)開発費が高騰しており、外部調達を一気に拡大する。
(3)有望な新薬は業界内で奪い合いとなり、取得額が高騰している。
(4)海外の医薬ベンチャーの買収も検討する。

(七)エーザイの2010年問題(12日付日経)。

(1)米製薬MGIファーマを4,000億円で買収する。
(2)MGIは前期の売上高380億円、利益45億円の赤字で、一見すれば高すぎるが、有望な開発中の新薬があるという。
(3)MGIの買収額と比べれば、富山化学の時価総額1,450億円はべらぼうに安い、と私は思う。

(八)富山化学と2010年問題。

(1)富山化学は販売部門を大正製薬との合弁である大正富山に譲渡し、退路を断って開発に特化している。
(2)当社は新薬の開発費用を自前でまかなってきた。よほど有望な大型新薬を持たなければ不可能である。
(3)私は、過去2年間、当社の開発状況に一貫して注目してきたが、今や大型案件がそろって最大の難関であるフェーズ1をクリアした。奇跡的である。
(4)中でもT-3811(国内ジェニナック、欧米ガレノキサシン)は今年10月に発売にこぎ着けた。5年後にはこの1品目だけで当社の業績を支える大型新薬に成長するだろう。
(5)日米政府から2年後の発売を要請されているT-705は、成功すればパンデミック(世界的大流行)に立ち向かう救世主となる。タミフルの有効性に疑問が持たれている現在では、政府備蓄用だけでも6,000億円の潜在需要が予想される。その詳細は次項で述べる。
(6)世界中の大手製薬会社が例外なく新薬の特許期限切れに苦しんでいるだけに、富山化学の存在感は日増しに高まるだろう。
(7)菅田社長は8月7日付けロイターとのインタビューで、買収等の申し出があった場合、「当社の企業価値を損なわない相手であれば」検討すると述べている。

(九)新型鳥インフルエンザとT-705。

(1)新型鳥インフルエンザの感染情報は日を追って急増している。この後に続く「クラブ9スペシャル」を参照されたい。
(2)中でも中国で初めてヒトーヒト感染を疑われるケースが出た。
(3)現実となれば北京オリンピックどころではなくなる。2003年に香港でサーズ騒動が広がった時には香港のレストラン、繁華街から人影が消えた。
(4)タミフルの有効性に疑問が出た現在では、富山化学の「T-705」が新型鳥インフルエンザ特効薬の本命となった。
(5)「T-705」に関して、来年初めまでに次の情報開示が予想される。
 第1に、日本におけるフェーズ2開始。
 第2に、日本におけるフェーズ1のデータ開示。
 第3に、米国におけるフェーズ1の進捗状況とデータ開示。
 第4に、複数の製薬会社に対するライセンス導出。
 第5に、日本政府と米国政府の開発資金援助。