2007/12/10

  2007年12月10日(月)
  サブプライム問題の虚実。

(一)評価損はなぜ10兆円から30兆円に激増したか。

(1)7月にFRBのバーナンキ議長がサブプライム関連の評価損が10兆円に達する可能性があると発言した時から暴落が始まり、8月に1番底を形成した。
(2)11月には、暴落がサブプライムとは無関係の資産担保証券全体に波及し、評価損は一気に20兆円に拡大した。
(3)20兆円の内訳を見れば、C格債は80%、B格債は60%の大暴落となり、最高のAAA格債でさえも30%暴落した。暴落幅は実態価値をはるかに超えた。
(4)投機筋の空売りによる売り崩しがなければ、これほどの暴落は起こりえなかったと私は思う。
(5)私の推定が正しければ、売り方は買い戻さなければ利益が確定しないから、政治的介入を契機に空売り筋が買い戻しに転じて需給関係が逆転する可能性がある。
(6)しかし多くのエコノミストは来年には評価損が30兆円に拡大し、株式相場の3段下げが避けられないと論じている。さらにアメリカでは住宅価格が暴落して消費が落ちるから、アジアと日本は輸出市場を失って世界的な景気後退が避けられない等、悲観論が蔓延している。

(二)政府、オイルマネー、金融機関の反撃。

(1)私は先週、次の根拠を示して、株価はすでに反騰に転じていると述べた。
 第1に、アブダビ政府は経営危機説に揺れていたシティバンクの株式8,000億円を買った。
 第2に、英国のHSBC銀行は傘下企業に2.5兆円を融資して、不良債権の市場売却を止めさせた。
 第3に、英国政府は信用不安の噂がある大手銀行を国営化する用意があると表明した。
(2)市場原理に任せると主張していたブッシュ大統領がサブプライムローンの直接救済に乗り出すと、ポールソン財務長官が予告した。
(3)さらにポールソンは不良債権を直接買い上げるために大手銀行を組織して10兆円のファンドを準備していたから、実行すれば強力なてこ入れ策となる。

(三)てこ入れ策に冷ややかな金融市場。

(1)ブッシュ大統領は先週、サブプライムローンの金利を5年間低利で凍結すると発表した。
(2)英国のイングランド銀行は政策金利を0.25%下げた。
(3)これで、FRBが11日に第3次金融緩和を決定することが確実となった。
(4)世界の株価は反騰に転じた。
(5)しかし多くのエコノミストは、この程度の救済策は一時しのぎに過ぎない、来年にはもっと厳しい3段下げが待ちかまえていると論評している。
(6)しかし私は、救済策は功を奏すると思う。最大の焦点は空売り筋の動向である。

(四)空売りの踏み上げも。

(1)ケインズ以降、資本主義社会は恐慌を回避するノウハウを確立し、1920年代を最後に世界恐慌は起こっていない。政府が恐慌を回避するノウハウを蓄積した時代に、局地的な金融不安を克服できないわけがない、と私は思う。
(2)サブプライム関連の混乱が続けば、米英欧の政府は協調して必ず第2、第3の救済策を打ち出す。
(3)需給関係を重視する私は、次の通り空売り筋の買い戻しに注目したい。
 第1に、資産担保証券を売り浴びせた空売り筋は買い戻しのタイミングを狙っている。
 第2に、政府やオイルマネーの動向を見て、保有証券の投げ売りを迫られていた金融機関は様子見に転じる。
 第3に、その結果、資産担保証券は売り手市場からから、買い手市場に変わる。
 第4に、変化を先見して、ニューヨークダウは史上最高値に挑戦する。
 第5に、株高の支援を受けて、資産担保証券は本格的反騰に転じる。
 第6に、空売り筋の踏み上げを交えて、反騰傾向が鮮明となる。
(4)その結果、来年の評価損30兆円の予想は10兆円に後退する。

(五)相場感。

(1)先週、私は強気論を述べたが、まだ少数意見であった。
(2)確かに、サブプライムローン問題は即座に全面解決とはならない。それゆえに米英欧の中央銀行もまた過剰流動性を早期に回収するわけにいかない。
(3)金融市場の過剰流動性は、オイルマネーやBRICsの貿易黒字を併せると500兆円の巨額に達している。これまで国債や商品に逃避していた過剰流動性は金融不安が収まるにつれて株式に向かうだろう。
(4)国内でも株式投資の資金量が急拡大する。
 第1に、郵貯銀行は貯金と簡易保険で300兆円を集めたが、貸し出し機能がない。これまでは大半を日本国債に投資してきたが、リスクを回避するために「国債売り、株式買い」へ、運用方針の大転換を急いでいる。
 第2に、世界で最も保守的な日本政府でさえ、110兆円の外貨準備の一部を株式投資に振り向けよ、という議論が起こっている。
 第3に、日本の金融機関と年金もまた、日銀の公定歩合引き上げに備えて国債売り、株式買いの裁定取引を積極化する。
(5)東京市場はヘッジファンドのヘッジ売りが集中して世界で最も大幅な暴落に見舞われた。しかし今やヘッジファンドは買い戻しを迫られているから、東京市場の反騰は大幅となるだろう。
(6)クラブ9は中小型材料株と新興市場株が先行して反騰すると主張してきたが、ほぼ予想通りの展開となっている。
(7)需給関係を重視する立場から、私は富山化学の空売りの増加傾向に注目したい。