2007/11/26

  2007年11月26日(月)
  JTは日本最大のコングロマリットに変身する。
  主要国の株価は2番底形成かへ。
  円高で日本株は独歩安から独歩高へ。

( I )JTは日本最大のコングロマリットに変身する。
(一)加ト吉の買収株価は安すぎる。

(1)私はJTや加ト吉とはいかなる人脈もインサイダー情報も持たない。
(2)しかし不祥事連発に揺れた加ト吉で急遽社長に就任したJT出身の金森氏は泥まみれで、しかし一歩も引かず、快刀乱麻を断つ活躍を見せた。私は、JTはすでに加ト吉を完全に掌握した、買収は時間の問題だと確信した。
(3)11月初めに金森社長は監査法人を更迭し、今3月期の業績見通しを極端に減額修正したから、私は買収への最後の準備が終わったと感じ、11月5日付けクラブ9で発表が近いと述べた。
(4)果たして直後にJTは買収を表明した。私は加ト吉買収のドラマをリアルタイムで、手に取るように予見できたと思う。
(5)上場会社を買収する場合の平均的な買収価格の算出方法に従えば、過去3ヶ月の平均株価(550円)+プレミアム30%(165円)=715円となる。実際の買収株価710円は、ほぼ予想通りであった。算定に際しては、客観性を重視して日常の取引関係を持たないGCAをアドバイザーに選んだ。
(6)しかし過去3ヶ月という算定期間の取り方には大いに問題がある。第1に、加ト吉の株価は5月頃までは900円前後であった。第2に、その後循環取引問題が浮上して600円台に急落した。第3に、今期の決算予想を革命的に減額した結果、500円台に急落した。第4に、退任した前常務取締役が私文書偽造の疑いで逮捕されて300円台に暴落した。
(7)不祥事の噴出は避けられなかったとしても、監査法人を更迭してまで業績予想を革命的に減額修正した直後の買収は、意図的に株価の引き下げを狙ったと見られてもやむを得ない。私は密かに、JTは買収価格に100円程度のプレミアムを上乗せして800円台に引き上げるのではないかと期待していた。
(8)もっとも、JTもその点に配慮して先に買収を表明し、その後の2日間に株価が160円上昇したのを確認して、30%のプレミアムを加算し、710円と決めた。反対訴訟を起こさせないための苦心の跡が見える。

(二)次は日清食品買収へ。

(1)加ト吉の買収には日清食品が参加した。表面的な理由はマスコミが報じたとおり冷凍食品事業の展開で共通の利害があるからだろう。
(2)しかし、JTの本当に狙いは、加ト吉に次いで日清食品を買収し、冷凍食品と乾麺で世界一のシェアを獲得するところにある、と私は思う。
(3)スティール・パートナーズによる買収攻勢に苦慮していた日清食品の二代目、安藤社長は、JTの傘下で経営権を安定させる方を選んだと推定される。
(4)JTは安藤社長に対して、JTの世界的なタバコ販売のネットワークを活用し、共同で世界に乾麺と冷凍麺の販売網を構築しようと説得しただろう。
(5)スティール・パートナーズが保有する日清食品株19%をJTが肩代わりするところまで、話し合いはすでに終わっていると私は思う。
(6)JTは世界市場で相次いで巨大タバコ会社を買収した。その買収戦略は緻密で、したたかで、スケールが1兆円単位である。

(三)次の、次の買収目標は製薬会社。

(1)加ト吉と日清食品を買収すれば、食品分野における野望は一挙に実現する。
(2)しかし食品業界の大型買収は序の口で、JTの次の目標は薬品会社である。
(3)世界の薬品業界は今、大型薬品の特許期限が続々と切れる2010年問題に揺れている。そのために製薬会社は新薬の開発にしのぎを削っているが、勢力地図の激変は必至である。
(4)新薬開発には巨額の先行投資が必要で、しかもきわめてリスクが高い。リスクを回避するためには大合併によって販売力と開発力を増強する必要がある。寡占化した世界の薬品大手は今、寡占時代から独占時代へ、生き残りを模索している。
(5)JTは製薬業界の買収で台風の目となるだろう。
(6)JTは専売公社時代から日本のタバコ市場を独占してきたが、世界のタバコ産業は巨額の発ガン訴訟で大揺れした。その間隙を縫ってタバコ会社の買収を重ね、世界屈指の巨大企業に変身した。しかしタバコ産業の斜陽化を免れる方法はないから、有り余る内部留保を食品会社の買収に投入したのである。その最大の目標は製薬業界にある。
(7)JTはタバコ会社ゆえに斜陽企業と見られているが、日本最大のコングロマリット(巨大複合企業)に変身する可能性が高い。
(8)クラブ9はJTの次の一手に注目したい。

( II )相場観。
(一)主要国の株価は2番底を形成か。

(1)中国を除く世界の株価は先週、大商い、大波乱を経て底値を形成した可能性がある。
(2)多数意見は、サブプライム破綻は現在が第2ラウンドで、来年には第3ラウンドが待ちかまえていると論じているが、株価には先見性がある。半年先までに予想される悪材料は株価が折り込んだと私は思う。欧米の政府も状況の悪化を放置しないだろう。
(3)指標となるニューヨークダウは1番底をつけた直後に史上最高値を更新しており、今回の2段下げでW底を形成する可能性が高い。
(4)金融市場の資金量はジャブジャブにだぶついているから、2番底を確認すれば予想外の急反発を演じる可能性がある。
(5)日本株についても独歩安から独歩高に転じる条件が成熟している。以下にその条件を検証したい。

(二)円高で東京市場は独歩高も。

(1)円の底入れが鮮明となった。ドルはもちろん、大半の通貨に対してジリ高となっている。日銀は公定歩合の早期引き上げを表明している。金利差をテコとした円安は一巡し、今後は金利差の縮小を織り込むだろう。
(2)マネーは強い通貨に向かう。円相場の底入れを確認すれば、外国人の日本株売りは日本株買いに逆転するだろう。特に欧州系のヘッジファンドは日本株の構成比を落としすぎており、修復が必要となるだろう。
(3)日本で常識となっている円高不況論は机上の空論に過ぎない。今日では輸出企業で生産の多国籍化も、為替のヘッジ売りもやらない企業は生き残れない。期首に為替レートを想定するのは、ヘッジの目標を決めているのである。
(4)金利が上がれば国債相場は必ず下がる。日銀の公定歩合引き上げが進むにつれて日本のすべての金融機関は国債売り、株式買いの裁定取引を加速する。
(5)中でも民営化した郵貯銀行は株式の需給関係に決定的なインパクトを与えると思うので、次項で詳述したい。

(三)郵貯銀行は世界最大級の機関投資家に変身する。

(1)郵貯と簡保は300兆円に上る世界最大級の資金を集めているが、貸し出し業務がないから、集めた資金は大半を国債に投資し、残りを財務省に委託運用している。
(2)しかし民営化した郵貯銀行は自力で黒字経営を達成する責任を負っているから、国債相場の暴落に備えて必ず株式投資を急増させる。
(3)第一弾として、資金量の10%、30兆円を国債から株式に乗り換える方針を表明している。うち3兆円はすでに投資ファンドを組成した。
(4)日本の株式の時価総額は500兆円である。全額を日本株に投資するわけではないが、30兆円の新規投資がもたらすインパクトはきわめて大きい。しかも第2弾、第3弾が続く。
(5)郵貯はすでに株式の買い付けを始めたという噂もある。
(6)日銀の公定歩合引き上げが本格化すれば、郵貯銀行はもちろん、日本のすべての金融機関が国債売り、株式買いの裁定取引に走り、外国人投資家の日本買いを誘発する。
(7)かくして潜在的な株式の需要は増勢一途となる。