2007/11/19

  2007年11月19日(月)
  行き過ぎたサブプライム悲観論。
  富山化学の新薬開発情報と私見。 

(一)行き過ぎたサブプライム悲観論。

(1)現在はサブプライム悲観論が行き過ぎた結果、資産担保付き債権で組成したファンドの低格付けものは60〜80%も大暴落し、AAAの格付けを持つファンドでさえ30%も暴落するという異常な弱気局面にある。私は実態価値からかい離した相場の反騰が近いと思うが、現実には暴落が金融機関の評価損を激増させて株価の暴落を招き、アナリストの業績予想やエコノミストの景気予測までを弱気に傾かせている。
(2)しかし先週、メリルリンチがファンドマネジャーにアンケートを実施したところ、80%が強気で、株価がすでにサブプライム問題を織り込んだことを根拠に上げていた。現に、暴落一途の日経平均と違ってニューヨークダウは急落したとはいえ史上最高値まで1,000ドル、7%の高値圏を維持している。
(3)半年後には債券市場が正常に復し、シティバンクの1兆円の評価損は消滅しているという強気論もある。
(4)機関投資家必見の米バロンズ誌は、アメリカよりも成長率が高い日本株がすべての指標で世界最低水準に暴落しており、買いの好機だと指摘している。
(5)株価を決定する要因は景気・業績だけではない。需給関係も重要である。
(6)その需給関係は圧倒的な需要超過である。オイルマネーと新興国の貿易黒字の急増による増加資金量3兆ドル(330兆円)に加えて、米欧の中央銀行が大規模な過剰流動性を放出しているから、潜在的な購買力は空前のボリュームに達している。
(7)私は、サブプライム悲観論の裏目が出で、予想外の金融相場が出現する局面が近いと思う。
(8)不景気の株高、需給相場、金融相場などと呼ばれるカネ余り相場では、人気は業績よりも理想買い、材料買いに傾きやすい。そこで今回は次項で富山化学の材料を検証しておきたい。

(二)富山化学の新薬開発状況と私見。

三菱UFJ証券11月14日付レポートを参照。

(A)鳥インフルエンザ治療薬 T-705。

(1)国内のフェーズ1は順調に進行し、11月には統計解析を終了。早ければ12月にフェーズ2の投薬を開始する。フェーズ2では、有効な治療効果が得られる用量の設定試験が主となる。
(2)日本と同時に進行している米国のフェーズ1は来年2月までに終了予定。来夏からフェーズ2に入り、健常人に弱毒化した季節性インフルエンザウイルスを接種して薬剤の効果を見る。
(3)2009年半ばまでに日米同時に製造申請、2009年末発売を予想。

(B)アルツハイマー治療剤 T-817MA。

(1)ライセンス導出時期が2010年3月期にずれる。
(2)2008年に海外でアルツハイマー患者の薬剤効果を検証するフェーズ2を行い、POC試験で有効性を確認した後、ライセンスを導出する。

(C)ジェニナック( T-3811、欧米ではガレノキサシン)。

(1)抗生物質ジェニナックは10月発売以来、副作用の報告は軽微である。
(2)売れ行きは順調で、3月までにアステラス製薬で43億円、富山化学で18億円を見込む。
(3)ジェニナック(ガレノキサシン)のライセンス供与先である米シェリング・プラウ社が昨年は米国で、今年は欧州で製造認可の申請を取り下げて、富山化学の株価を急落させた。
(4)当時は不明であった申請取り下げの理由が、今回の三菱UFJ証券のレポートから次のように読み取れる。国内で販売するジェニナックは経口薬であるが、シェ社が欧米で販売するガレノキサシンは注射薬である。欧州では点滴で静脈に注射した際に一部で低血圧の報告があったので、投与時間を延長して安全性を確認する準備に入った。欧州の発売は2010年の予想。
(5)米国では、シェ社が米国で独占販売権を持つ抗生物質アベロックスを優先するためにガレノキサシンの申請を取り下げたが、アベロックスの特許は2010年に切れるので、米国のガレノキサシン発売は2011年と見られる。

(D)経口リューマチ治療剤 T-5224。

(1)ロシュ社にライセンスを導出し、2008年度中間決算で18億円の一時金を計上した。
(2)下期にはロシュ社が要求する追加データを提出し、33億円の追加計上を見込んでいる。

(E)クラブ9私見。

(1)以上は三菱UFJ証券のレポートの要約である。正確には直接レポートを取り寄せてご覧頂きたい。以下に私のコメントを加えておきたい。
(2)富山化学は営業部門を大正製薬と合弁の大正富山に譲渡し、新薬の研究開発に特化している。開発費用は、新薬がフェーズ1をクリアした段階で販売権を大手製薬会社に売って調達している。成功した場合の果実は大きいが、リスクの高い経営手法である。
(3)新薬の研究開発は、1.試験管の中の開発、2.動物実験、3.人体臨床フェーズ1、4.フェーズ2、5.フェーズ3、6.製造認可申請、7.認可へと進む。
(4)フェーズ1終了時点で大半の新薬候補はふるい落とされるので、富山化学は成功の確率が高くなったフェーズ1終了後に販売権を大手製薬会社に譲渡している。しかし買う側の製薬会社もリスクを回避するために販売権を前項の各工程に分割して支払う「マイルストン方式」を採用している。富山化学とすれば、発売までこぎ着ければ販売権の導出金額が最大となる。
(5)さて、新薬開発の進行状況はきわめて順調で、1年前と比べれば進歩の後は歴然としている。
(6)開発中の4つの大型新薬のうち、先ず抗生物質ジェニナックが10月に国内発売を開始した。欧米でも2年以内に発売を見込んでいる。富山化学はついに業績を下支えする自社開発の大型新薬を取得したのである。ちなみにシェ社に直接取材したところ、欧州におけるピーク時の年間売上高を500億円と見込んでいた。
(7)鳥インフルエンザ治療薬 T-705は世界中の政府が早期開発を待望している。鳥インフルエンザが東西ヨーロッパ、アフリカ大陸、アラビア大陸に拡散して行く状況はインターネットで鳥インフルエンザ情報を検索すれば連日のように報道されている。特にインドネシアでは113人の入院患者のうち91人が死亡するという恐るべき死亡率を記録している。パンデミック(世界的大流行)への進化は時間の問題と見られているが、現在世界中の政府が備蓄しているタミフルの有効性に強い疑問が持たれている。そのために米国でも同時進行中の T-705の臨床を急いでいるのである。
(8)アルツハイマー治療剤と経口リューマチ治療剤もフェーズ1をクリアした。
(9)世界中の大手製薬会社が2010年に続々と大型薬品の特許期限切れを迎える中で、富山化学は順調に行けば2010年前後に大型新薬がそろって開花する。
(10)新薬開発に絶対という保証はないが、1年前と比べれば長足の進歩である。10月には第1弾のジェニナックが発売を開始した。売上高はシェ社が本格参入する5年後にピークを迎えるだろう。
(11)短期的には、第2弾と目される T-705の新たな情報開示に注目したい。