2007/10/9

  2007年10月9日(火)
  需給が好転した東京市場。

米国、欧州、英国の中央銀行はサブプライム破綻の拡大を防ぐためにジャブジャブに金融をゆるめた。石油相場の急騰で産油国のオイルマネーが増加した。金融市場のマネーが増加したから、商品相場と株式相場と不動産相場が連鎖して上昇する資産インフレの基調は衰えない。中でも東京市場の需給関係が好転している。

(一)底値をたたき売った外国人筋。

(1)下表は楽天の直近の取り組みの変化である。

 
9月21日(1)
10月4日(2)
(2)÷(1)
信用売り
5018株 
20235株 
4.0倍 
信用買い
40787株 
19503株 
0.48倍 
貸借倍率
8.14倍 
0.96倍 
 

表の通り、過去2週間で楽天の信用売りが4倍に激増したのに対し信用買いは半減したから、貸借倍率は8倍の買い長から一挙に株不足となり、株価も急騰した。
(2)貸借倍率の激変は、大量の借り株を用いて楽天を売り崩していた外国人が、あわてて買い戻したことを証明している。
(3)「借り株」は外国人が大株主から現物株を借りて株価の売り崩しに用いる「奥の手」である。外国人は大量の現物株を用いて一気に売り崩すから、売れば売るほど日証金の取り組みが悪化し、 個人投資家が恐怖に駆られて投げ売りする。そこを買い戻して連戦連勝していたのである。
(4)外国人はソフトバンク、Eトレード、スパークス、GCA等も借り株を用いて売り崩した形跡があり、株価が楽天と前後して急騰した。
(5)しかし外国人が最も大規模に売り崩したのは日経平均先物である。先物市場を占拠した外国人は先物に大規模な売りを浴びせ、先物に引きずられて現物が崩れたところ買い戻して稼ぎまくっていたが、 ついに深追いしすぎて先物市場で大量の売り玉を残した。
(6)私は8月20日付クラブ9で「17日(金)に日経平均が世界で唯一大暴落を演じた理由がどうしてもわからない」と述べたが、今にして思えば17日こそ外国人の売り仕掛けがピークに達した日であった。
(7)外国人は先物市場や借り株を利用して売り崩し、大もうけしていたが、ついに深追いし過ぎて窮地に陥った。私の推定が正しければ、独歩安を演じていた東京市場は外国人の買い戻しで割安の修正が進むだろう。

(二)需給理論を忘れた優等生。

(1)私はエコノミストや日経が弱気論一色であった1ヶ月前にニューヨークダウは史上最高値を更新すると主張し、その後も強気論を堅持している。強気の根拠として資金量の急速な増加を指摘した。
(2)第1に、石油が史上最高値を更新して、オイルマネーが増加した。第2に、米欧英の中央銀行が一斉に過剰流動性を放出した。
(3)金融市場の資金量が急増すればサブプライム破綻の拡大が防げる上に、需給関係が好転して株価が上がると確信したのである。
(4)価格が「需要と供給の接点で決まる」ことは経済学のイロハである。
(5)株式市場には「不景気の株高」という格言もある。不景気になればなるほど日銀は金融を緩和するから、不況下でも需給関係が好転して株価は上がる。
(6)経済学の優等生であるエコノミストは、経済学のイロハである需給理論を知らないのだろうか。

(三)サブプライム破綻の虚実。

(1)バーナンキFRB議長がサブプライム破綻の被害金額は最大1,000億ドル(12兆円)と発言した日から、株価の暴落が始まった。
(2)それからわずか2ヶ月後に、IMF総裁が破綻金額は2,000億ドル(23兆円)と発言した。なぜ破綻金額が2ヶ月で2倍に激増したのだろう。
(3)前回に私はサブプライムローンの現実の破綻金額は最大で5兆円と試算したが、金融市場で5兆円が23兆円に大化けした経過は次の如くである。
(4)例えばサブプライム債権を10%しか組み込んでいないファンドでも、売り手が殺到すれば実態価値を超えて暴落する。ファンドの相場が半値に暴落すれば、住宅ローン市場で破綻した5兆円は債券市場で5倍の25兆円に膨張するのである。
(5)欧米の大手金融機関はみな過去2〜3年間に1兆円単位の利益を蓄積したから、1,000億円単位の赤字を償却するのは困難ではない。しかし赤字を償却するためには赤字額を確定しなくてはならないから、各行が一斉に手持ちのサブプライムファンドの売却に踏み切った。その結果相場が暴落し、評価損が激増したのである。
(6)しかし一方で暴落を食い止めるための金融緩和も本格化した。ジャブジャブ金融が効果を現し、暴落したサブプライムファンドを買う銀行が現れて売買が成立し始めた。これから赤字を計上する金融機関が続出するが、実態の赤字がみえたから、虚像の金融不安は解消するだろう。
(7)金融機関の買収に乗り出す投資家も現れた。例えば、バンクオブアメリカはサブプライムローン最大手のカントリーワイド・ファイナンシャルに2,000億円を出資した。例えば、ウォーレン・バフェットはベア・スターンズの買収に乗り出した。例えば、取り付け騒ぎが起きた英ノーザン・ロックにサーベラス等が買収の名乗りを上げた。
(8)極めつけはグリーンスパン前FRB議長の豹変である。悲観論の旗頭であったグリーンスパンが10月1日に突然楽観論に転換した。その発言には金融市場の表裏を知り尽くしたプロフェッショナルの面目が躍動している。すなわち 「暴落していたサブプライム関連ファンドの買い手が現れたから、今後は需給関係が逆転して、破綻金額は縮小に転じる」と見たのである。
(9)机上理論のエコノミストは、実践で鍛えたグリーンスパンやリスクを恐れない投資家に到底対抗できない。

(四)好条件山積の東京市場。

(1)東京市場では需給好転を示す条件が山積みである。
(2)外国人は日経平均の先物や中小型株の買い戻しを迫られている。
(3)中国政府が資本金2,000億ドル(23兆円)の投資会社を設立した。中国にとって技術先進国である日本の優良株、ハイテク株を買う可能性が強い。
(4)日本郵政公社が民営化し、株式投資を積極化する。年内に2兆円を買うとと見込まれるが、民営化に先立って8月までに1.2兆円を売却したから、上下で3.2兆円の需給改善効果が見込める。
(5)郵政グループは来年以降に30兆円の日本株を買う可能性が高い。この点については改めて述べたい。