2007/8/20

  2007年8月20日(月)
  8月17日、東京市場大暴落の謎
  無能な日本、有能なアメリカの行政。
  日銀の金融政策の大欠陥。
  日経は不見識、不勉強を正せ。

(一)8月17日、東京市場大暴落の謎に迫る。

(1)先週、17日、金曜日に、東京市場は記録的な大暴落を演じた。しかしその日暴落したのは日本だけであった。日本の投資家だけが不可解な大暴落に遭遇し、悲劇的な投げ売りを強制されたのである。私は17日の暴落を、あたかも白日夢を見たように不可解と感じた。その理由をここに記録し、東京独歩安の謎に迫りたい。
(2)前日の16日に、ニューヨークダウは大引けにかけて急反騰した。中でも反騰をリードしたのはシティバンク、メリルリンチ等の金融株で、大陽線、高値引けとなった。
(3)16日には日本でもみずほ、三菱UFJ、三井住友の三大銀行を初め、野村証券、オリックス等の金融株が長大な下ひげを伸ばして陽線で引けた。
(4)もともと8月の世界同時大暴落はアメリカのサブプライムローンの破綻が原因であったから、金融株が暴落をリードしていた。その金融株の急反騰は底入れを予感させるに十分な指標だと私は感じた。
(5)底入れを予感させる徴候はあちこちに点滅していた。先週1週間、米、欧、日の中央銀行が連日にわたり累計100兆円に及ぶ流動性を供給した。サブプライムローンの不良債権は最大でも15兆円と見られていたから、100兆円は金融不安を払拭するに十分な資金量である。
(6)さらにアメリカは年内に公定歩合を0.25%幅で2度引き下げるという噂が流れていた。
(7)以上の徴候から、私は米FRBが金融不安一掃へ本腰を入れた感じ、17日の東京市場は反騰するものと確信した。
(8)しかし翌、17日の東京市場は私の期待を完全に粉砕した。株価は終日下げ幅を拡大し、800円を超える凄惨で、記録的な大暴落を演じたのである。
(9)大暴落はあまりにも不自然、不可解で、私は暑すぎた夏のせいで白日夢を見たのではないかと思った。
(10)17日夕刻のテレビニュースは株価大暴落の報道一色で、サブプライム問題が暴落の原因であると解説していた。私は時期遅れのサブプライム解説に腹を立てて、やたらにビールを飲んでいた。
(11)その時、ロンドンの友人から電話があり、なぜ東京市場が暴落したのかと問われた。聞き返してみると驚くべし。ヨーロッパではすべての株式市場が堅調に始まり、金融不安は終結したという観測が広がっているよ、と言う。
(12)さもありなん。17日に底入れするという私の予感は間違いではなかったのである。ニューヨーク時間に入ると、FRBは公定歩合0.5%引き下げを発表し、ヨーロッパ各地とニューヨークはそろって急騰した。
(13)それならば、なぜ東京だけが不条理な大暴落に見舞われたのだろう。なぜ日本の投資家だけが大損害を被ったのだろう。その謎は翌日になっても解けない。それゆえ後日のために私が見た白日夢の24時間をここに記録した。

(二)無能な日本対有能なアメリカ。

(1)17日、日本時間の深夜に、米国FRBは公定歩合を0.5%引き下げると発表した。市場の動揺が翌週に及ぶのを防ぐためにタイミングを早めた緊急措置であった。
(2)ヨーロッパ各地と、ニューヨークの株価は力強い反騰に転じた。
(3)同じ17日に大暴落で投げ売りを強いられて、馬鹿を見たのは、世界で日本の投資家だけである。
(4)この日までに、日本では総理大臣、日銀総裁、財務大臣から積極的なコメントは全く聞けなかった。無能、無責任といわざるを得ない。
(5)欧米の大統領、首相は「国民の生命と財産」を守ることを政策の自明の大前提としている。「国民の財産」とは国民が保有する株式と住宅である。
(6)アメリカの大統領は過去10年間に、ルービンとポールソンの2人の財務大臣をゴールドマンサックスからスカウトした。もちろんFRB議長も民間から起用する。大統領は「アメリカ人の財産を守る」ために全米から最高の頭脳を選ぶ責任がある。
(7)ポールソン財務大臣は昨年、ゴールドマンサックスの会長からスカウトされた。ポールソンはゴールドマン時代を含めて中国出張が100回に及ぶ、行動力にあふれた実力者で、中国の金融政策にも大きな影響力を持っている。
(8)そのポールソンが株価の暴落を放置するわけがない。水面下でバーナンキFRB議長と連携して秘策を練ったと思われる。
(9)それゆえ私は、過剰で異常な弱気論に振り回された日本の投資家が、この後も弱気にこだわるのは危険だと思う。欧米の行政当局は必要ならば、政策金利の引き下げ、公定歩合の更なる引き下げ等、第2、第3の矢を準備しているに違いない。
(10)国民の生命と財産に責任を負わない、或いは責任を負う能力がない日本の行政と同じ視点でアメリカの金融政策を論じるのは危険だ。

(三)日銀の重要な欠陥。

(1)ポールソンは財務大臣就任以来、再三ドルの価値を守ると表明している。
(2)ルービン元財務大臣にいたっては積極的にドル高政策を推進し、米国に好景気をもたらした。すなわちドル高政策によって世界のマネーがアメリカに流入し、アメリカの株価と地価が上がり、株価と地価の高騰がアメリカに好景気をもたらすという理論を実践し、見事に証明したのである。
(3)日経と正反対に、アメリカのウォールストリートジャーナルは直近の社説で公定歩合引き下げに反対し、サブプライム問題よりも、ドルの下落の方が危険だと論じた。
(4)これに対して福井日銀総裁は欧米の中央銀行が金利を急速かつ大幅に引き上げた間にも、優柔不断で0.5%に止めた。その結果、世界中の投機筋のキャリートレードを誘発し、円は世界で唯一、独歩安を演じた。日本の株価と地価は世界で最も割安となったのである。
(5)円が10%下がれば、日本人の財産は10%減る。通貨が10%上がった国に比べると上下で20%の財産の格差が生まれた。エコノミストやマスコミの間に自虐的弱気論が充満した。これこそ日本に閉塞感と消費不振をもたらした最大の原因である。
(6)アメリカは先週公定歩合を0.5%引き下げた。必要であれば更に0.5%引き下げる構えである。
(7)しかし実質ゼロ金利の日銀は公定歩合を引き下げて、株価の暴落に対処することができない。今もし関東大震災が発生すれば、ゼロ金利の日銀は金融政策によって大混乱に陥った日本経済を救済することができないのである。
(8)だからこそ日銀は平時に金利を適正な水準に引き上げておく責任がある。世界の大勢に背を向けてゼロ金利政策を墨守する福井総裁とゼロ金利政策を支持するエコノミストは狂っていると私は思う。
(9)6月以降、私は円が反騰前夜だと繰り返し予測し、事実となった。為替市場は日銀の公定歩合大幅引き上げを催促しているという私の予測は的中した。
(10)私が終始一貫して日銀のゼロ金利政策を批判するゆえんである。

(四)日経の不見識を笑う。

(1)日経はことあるごとに円高株安論、円高業績悪化論、円高不況論を述べるが、私は日経こそ自虐的弱気論の震源地で、世論をミスリードしていると思う。
(2)第1に、アメリカの歴代財務大臣はそろって、明快にドル高がアメリカの国益にかなうと述べている。
(3)第2に、日経が目標としているウォールストリートジャーナルは、直近の社説でドルの価値を守るためにFRBは金利を下げてはいけない、と主張している。見識の高いバロンズ誌も同じ主張を掲げている。
(4)第3に、ユーロが暴騰したヨーロッパではドイツを筆頭に株価と地価が上がり、輸出が伸びて企業と国民は好景気、好業績を謳歌している。昔も今も、ヨーロッパでユーロ高を批判する声や悲観する声を私は聞いたことがない。第4に、韓国や台湾でも市民が通貨高を歓迎し、観光客が大挙して日本に押しかけている。
(5)第5に、日本でも1ドル360円から80円へ、円が大暴騰した課程でソニー、松下、トヨタ、ホンダ、キャノンなど、日本を代表する成長企業が輩出した。輸出企業は円高を克服するために技術革新と多国籍化を進めたからである。第6に、かつてマスコミは中小企業を代表する新潟県燕市の洋食器が円高で崩壊すると大騒ぎしたが、ブランド力を高め、現在も健在である。
(6)第7に、日経は、輸出価格を1ドル115円と想定した企業は115円を1円割り込むたびに利益がいくら減るかという試算ばかりを報道するが、典型的な優等生の空論である。115円と想定した輸出企業は為替が120円台を維持している間に今期の輸出分の大半を先物市場でヘッジしている。想定レートを掲げておいてヘッジを怠るような企業はとっくに倒産してしまっている。任天堂のように為替をヘッジしない企業もあるが、アメリカを主力市場とする任天堂は初めから経営の基盤をドルにおいているのである。
(7)第8に、今日ではパーツメーカーといえども円高ヘッジのために多国籍化を進めている。第9に、総合商社は成約と同時に為替ヘッジを済ませている。
(8)かくして今どき為替リスクをヘッジしていない輸出企業は存在しない。日経のような経済紙が時代錯誤の、事実に反する円高不況論、円高恐怖論をあおるのは不勉強、不見識である。

(五)相場観。

(1)サブプライムローンの不良債権は最大でも15兆円に過ぎない。過去数年間に空前の利益を蓄積した欧米の金融機関にとって、この程度の損失はたいした負担にならない。
(2)しかし上昇相場に慣れて投機資金を膨らませていた一部の機関投資家は株価の暴落で痛手を受けた。彼らが争って手仕舞いに走ったために出来高が激増し、サブプライムを上回る2次災害を引き起こした。
(3)暴落は為替市場に飛び火して3次災害を誘発した。円のキャリートレードで大膨張していた投機資金があわてて買い戻しに走ったために円が暴騰し、巨額の損失が発生した。
(4)為替波乱の後遺症は日本の金融機関が大量に売った「外貨建て投信」に及ぶだろう。
(5)暴落は商品市場に飛び火し、一部ファンドの換金売りを誘った。しかし商品相場は商品独自の需給関係をベースにしているから、混乱は比較的早期に収まるだろう。
(6)今回の暴落は金融市場の破綻が原因だから、金融政策によって乗り越えることができる。
(7)とはいうものの、暴落が厳しかっただけに余震と後遺症が尾を引く。値幅整理は終わったが、日柄整理が残るだろう。
(8)銘柄については逐次ふれたい。