2007/7/2

  2007年7月2日(月)
  仕手系、材料含み、4銘柄の注目点。
  富山化学、加ト吉、大正製薬、東芝プラント。

(一)富山化学の材料と人気。

(1)千載一遇(1000年に一度しか出会わない)という言葉があるが、当社ほど大型の材料が集中したケースを私は見たことがない。もちろんすべての材料が成功するとは断定できないから、強弱感が取り組みに反映して株価は仕手色を強めている。
(2)第1に、先週開示されたリューマチ治療薬T-5224のライセンス導出は、かねてから予想された材料であったが、ヨーロッパ最大のロッシュ社が、450億円の巨費を投じた点に意外性があった。
(3)ロッシュの真の狙いは鳥インフルエンザ治療薬T-705のライセンス取得にあるという憶測も流れた。
(4)第2に、T-705は動物実験段階で鳥インフルエンザに対する薬効が突出して高い。人体臨床のフェーズ1は日本では7月に、アメリカでは9月に終了の予定で、副作用の有無を確認した後、ライセンス導出交渉が始まる。ロッシュはタミフルを販売しており、そのタミフルに取って代わる可能性が高いT-705を、開発段階で抑えておきたいところだろう。
(5)新型鳥インフルエンザは現在もヨーロッパ、アフリカの各地に拡散し、拡大している。パンデミック(大流行)必至の予測は高まる一方で、アメリカのFDAもT-705の臨床に積極的に関与している。
(6)第3に、新型抗菌剤ガレノキサシンは厚生労働省の製造認可が近いと予想される。ヨーロッパの認可も年内と見られる。ガレノキサシンの大物ぶりは、昨年の4月にシェリング・プラウ社がアメリカで製造認可を受けたとき株価が1,400円に暴騰したことで証明済みである。しかしその後、シェ社がライセンスの申請を取り下げたために株価が暴落し、投資家の失望を招いた。シェ社がなぜアメリカの認可を取り下げたか、なぜヨーロッパでは申請を維持しているか、という理由が現在も不明で、富山化学に対する不信感の原因となっている。
(7)第4に、アルツハイマー型認知症治療薬T-817MAは、フェーズ1が昨年末に終了しており、ライセンス導出交渉がすでに半年を超えた。ぼけの本格的治療薬は人類待望の新薬で、成功した場合の市場規模は特大と見込まれる。当然ライセンスの金額も大型で、それゆえ決着が遅れているという見方もある。
(8)もし四つの新薬が全部発売にこぎ着ければ株価の居所が変わってしまうが、新薬の開発はそれほど簡単にはいかないという意見も多い。
(9)しかしライセンスの導出額から市場規模を占うとすれば、1年以内にある程度のめどはつく。材料が大きいだけに、仕手人気は衰えないだろう。

(二)加ト吉劇場は第2幕へ。

(1)加ト吉問題は先週まで、ほぼ私の予想どおりに進展した。
(2)上場廃止問題は、大証が特設ポスト入りを解除したことによって消滅した。もともと上場廃止論には根拠が乏しかった。
(3)第1に、もし循環取引を上場廃止の条件とすれば、取引先が多い大手商社や多数の子会社を持つ大企業が続々と連座する。加ト吉の場合はたまたま循環取引の相手企業が倒産し、予期せざる赤字が発生したために問題が表面化した。
(4)第2に、加ト吉はカネボウや日興證券のように決算を意図的に粉飾したわけではない。粉飾が明らかな日興證券ですら上場廃止にならなかったのだから、加ト吉の循環取引が不問に付されたのは当然である。
(5)第3に、金森新社長の対応は、逃げず、臆せず、迅速、果断、誠実、明快で、不透明なところがなかった。金森社長が登場しなければ、加ト吉は不祥事と内部告発で自壊作用を起こしていただろう。
(6)第4に、空売り筋は金森社長を見くびっていたのではないか。終始一貫指摘しているように、私は噴出する経営危機に遭遇してこれほど傑出した能力を発揮した社長を見たことがない。日本航空や三洋電機の混迷と比べれば、社長の力量の差はあまりにも歴然としている。
(7)第5に、加ト吉の後ろ盾となったJTの存在が大きかった。売上高6.2兆円の超巨大企業が食品に活路を求め、本気で加ト吉の冷凍事業に肩入れしている。
(8)私は、加ト吉劇場の第2幕・「加ト吉の買収の場」が間もなく始まると思う。
(9)今や創業者の加藤氏を初め、すべての株主、従業員、取引先が、白馬の旗手、JTの登場を待望している。企業が営々として蓄積した資産を食い散らすスティールパートナーズとは対照的に、JTは加ト吉の冷凍食品事業を世界に広げる意欲を持っている。

(三)大正製薬とMBO。

(1)日証金の取り組みは6月22日現在、売り1に対して買い0.08という極端な株不足である。
(2)売り方は業績悪化を見て空売りし、買い方は傑出した資産内容を評価して買い向かう。そのミスマッチが取り組みに現れている。
(3)大正製薬を創業した上原家はリポビタンで巨大な資産を蓄積した後、堀田住友銀行元頭取と大平元首相の子息の二人を副社長に迎えて華麗な閨閥を築いた。5,200億円の利益剰余金を初め、上原記念生命科学財団や上原近代美術館に蓄積した資産も大きい。業績が多少悪化しても高率配当の維持に不安がない。
(4)大株主が安定している上に、相次ぐ自社株買いで浮動株を吸い上げたから、万一外資が買収を仕掛ければ、上原家は全株式を買い取って上場を廃止する構えである。
(5)同業の大塚製薬も又超優良企業であるが、上場せず、傘下のニチバンやアース製薬を身代わりに上場している。大正製薬も富山化学の持ち株を倍増し、身代わりに上場させるという選択肢がある。
(6)株式会社は株主のものという思想が徹底しているアメリカには、大正製薬が蓄積したような巨大なキャッシュや含み資産は存在しない。先週、スティールパートナーズがブルドックソース等の株主総会で要求したように、期間利益に反映されない遊休資産は即座に売却して配当に回せという株主の主張が通るからである。
(7)しかし日本の株主総会ではス社の要求はすべて否決された。日本では日本の決着の付け方が当然である。資産を根こそぎ配当してしまえばドライなス社は大もうけして利食いするが、ウエットな長期安定株主はその後の株価の暴落で、損害を受けるからである。
(8)アメリカで株主の無法な要求を回避するためには、経営者が全株式を買い取って上場を廃止する以外にない。これをMBO(Management buyout)と呼び、日本でも究極の企業防衛策であるMBOを採用する企業が増え始めた。
(9)日経もアナリストも、大正製薬の減益を報道するが含み資産を評価しないから、株価が下がる。割安を放置すれば買収される恐れが生じるから、経営者は自社株買いで高株価を維持し、ついにはMBOに追い込まれかねない。

(四)東芝プラントは東芝秘蔵の子会社。

(1)東芝は東芝プラントの60%を保有しており、傘下企業中持ち株比率が最大である。それゆえ私は東芝プラントを東芝の秘蔵っ子と見る。
(2)日立プラントもまた親会社の日立が70%を占める大株主である。
(3)両社は共に原子力発電プラントの設計からメンテナンスまでを担当しているから、他社による買収を未然に防ぐ必要がある。
(4)原子力発電は末端のパーツに至るまで絶対安全を要求されるから、新規参入企業が殆どない。例えば木村化工機や岡野バブルは原子力発電の新設が話題に上るたびに株価が急騰するが、製品の一部がプラントに組み込まれているからである。
(5)野村證券が緊急に地球温暖化防止ファンドを売り出すという。今や、温暖化防止、クリーンエネルギーの決め手として原子力発電の新設計画が世界中で目白押しとなった。中でもウエスチングハウスを買収した東芝は、アメリカだけで21基目の受注を確定し、株価が独歩高の高騰を演じている。
(6)東芝プラントは永い不況期にも国内の電力設備のメンテナンスで高水準の利益を維持してきた。財務内容も傑出している。今回の東芝の原子力発電の大量受注では大きな恩恵を受けるだろう。
(7)株価は長期保合の上放れを目前にしている。浮動株が少ないだけに新値更新後に急騰する可能性がある。
(8)これほどの優良株でも、なぜか空売りが90万株もある。