2007/6/4

  2007年6月4日(月)
  加ト吉の研究

(一)循環取引の問題点。

(1)加ト吉は循環取引に関して外部調査委員会に調査を依頼し、4月24日に業績の下方修正を行った。
(2)その後の調査で新しい問題点は発生しなかったが、正確を期するために過年度の修正と共に、正規の決算を6月15日に発表する予定で、30日付けで監査法人の監査報告がつかない仮決算を発表した。
(3)30日発表の決算によれば、循環取引に関わる赤字は150億円で、引当金を積んだ後の最終損益は92億円の赤字となった。
(4)3月決算の企業は2ヶ月以内、すなわち5月31日までに正規の決算を発表する責任がある。これに遅延したために、大証は即日特設ポスト入りを決定した。
(5)しかし東証は上場を維持した。6月15日まで猶予を認めた形である。

(二)加ト吉の財務内容と業務内容。

(1)加ト吉は自己資本1,000億円、利益準備金400億円を積み立てた堂々たる優良企業である。
(2)今回の赤字で後遺症が尾を引く懸念はない。
(3)財務内容からは利益を粉飾する必然性がない。循環取引は売上高の水増しが目的であったが、循環取引の中から倒産会社が出たために、問題が表面化したと推定される。
(4)循環取引は不正ではあるが、商社等では現在も商習慣として存続している場合が少なくない。
(5)加ト吉は世界1の冷凍食品会社である。家庭はもちろん、大半の外食産業が重要な食材に用いている。
(6)加ト吉の事業は社会的なニーズに対応して発展した。
(7)海外でも冷凍倉庫や冷凍配送網が発達するにつれて冷凍食品の市場は拡大発展するだろう。

(三)迅速、峻烈、果断。金森新社長の経営革命。

(1)JTは加ト吉の冷凍食品の有望性に着目して発行株式の5%を取得し、食品部長の金森氏を副社長に送り込んだ。その金森氏が不祥事を機に社長に就任した。
(2)JTは売上高、4.7兆円、経常利益3,000億円。海外のたばこ企業を次々に買収して世界中にネットワークを構築した超巨大、優良企業である。
(3)しかし主力のたばこが斜陽のため、かねてから医薬、食品、農業に活路を求めていた。加ト吉の冷凍食品事業は格好の目標となった。
(4)社長就任後の金森氏の行動は迅速、峻烈、果断である。東大卒、元専売公社の官僚機構にありがちな優柔不断はみじんも感じられない。かねてから加ト吉発展の構想を十二分に暖めていたと思われる。
(5)第1に、即座に外部調査委員会を編成して問題の早期、徹底解明に当たった。
(6)第2に、JT出身の2名を除く全取締役を退任させた。
(7)第3に、創業社長を相談役から、その実弟を顧問から外し、古い人間関係を一掃した。
(8)第4に、管理機構を東京に移した。
(9)創業者、オーナーで会長、社長を兼務する加藤氏は一代で加ト吉を世界一の冷凍食品会社に育て上げた立志伝中の傑物である。地元観音寺市の市長も歴任した名士であるが、業容が拡大するにつれて個人経営の弱点と限界を露呈した。
(10)金森新社長は不祥事が再発する可能性を人事と立地の刷新によって全面的に断ち切ったのである。

(四)名実ともにJT傘下へ。

(1)残った取締役はJT出身の2名のみである。新しい経営陣は社外を中心に6月の株主総会で選任される。すなわち金森新社長はJTが不退転の決意をもって再建に当たると宣言したのである。
(2)残された経営革新の総仕上げはただ1点である。JTは第3者割り当て増資等を引き受けて筆頭株主となり、名実ともに加ト吉を傘下に置くだろう。
(3)そうなると実質的な企業買収であるが、JTは不祥事で揺れる加ト吉救済の白馬の旗手として、すべての関係者から歓迎されるだろう。
(4)私の予想通りに進展すれば、これほど鮮やかな経営革新はきわめてまれである。
(5)6月15日発表予定の最終決算発表でよほどの問題点が表面化しない限り、株主は金森社長を支持し、東証、大証は上場維持に異論をはさまないだろう。

(五)M&Aの一つの理想型。

(1)村上ファンドやスティールパートナーズの株集めは経営権の奪取よりも株価を高値で買い取らせることを目標にしており、グリーンメーラー(札束による恐喝)の側面が露骨である。
(2)JTによる加ト吉再建は乗っ取りと同じ結果となるが、加ト吉を発展させようとする意欲が鮮明である。
(3)加ト吉のケースは企業買収の一つの理想的なモデルとなるだろう。
(4)超巨大企業のJTにとっても異業種進出のモデルケースとなる。
(5)創業社長の加藤氏は傑出した着想と決断力によって一代で加ト吉を世界一の冷凍食品会社に育て上げた。
(6)不祥事によって経営の主導権はJTに引き継がれたが、最善の後継者、後ろ盾を得る結果となった。
(7)今後は経営が近代化し、海外に飛躍する足がかりも得た。
(8)ブランドイメージは低下するよりも、JT効果で上昇するだろう。

(六)株価の行方。

(1)31日付けで、加ト吉の格付けを野村證券は引き下げたが、日興證券は引き上げた。
(2)評価が対立する点は取り組みにも端的に現れており、大幅な株不足で逆日歩が長期にわたり継続している。
(3)6月15日の決算発表で最終的な実態が明らかになるまで楽観はできないが、悪材料は金森新社長の手ですべて洗い出されたのではないか。
(4)今後はJTの支援を得た事業の展開力が注目されるだろう。
(5)リスクが取れる投資家にとっては、強弱感が別れている今が買いの好機である。

閑話休題。
(七)相場観。

(1)異常な弱気論が日本列島を支配している間にも、世界の株価の上昇トレンドは揺るがなかった。上海A株の反落、調整は予想通り、格好のガス抜きとなった。
(2)世界中で、株式市場ばかりか、不動産市場や商品市場も上昇トレンドを堅持している。
(3)今日では不動産や商品のような実物資産が次々に金融商品に変身し、株式、債券、為替などと並ぶ金融市場の主力商品となった。
(4)日本は蓄積した外貨の大半を米国の国債に投資しているが、中国は保有外貨のうち30兆円を国家機関が直接金融市場で運用すると発表した。このような国家機関が直轄する 運用資金は300兆円に達していると推定される。
(5)かくして世界の金融市場の資金量は拡大一途である。
(6)そんな時代に、日本のエコノミストは国内の官庁統計だけを頼りに景気や株価を予測している。時代遅れ、時代錯誤と言わざるを得ない。
(7)東京市場が低迷している間にも外国人投資家は不動産やリート(不動産投信)や三菱地所を買い進んだ。彼らの目標は超出遅れの日本の不動産である。
(8)外国人投資家は総合商社も買った。彼らの目標は総合商社が支配している非鉄、鉄鉱石、石炭、穀物等の実物資産である。
(9)先週、日本の長期金利は今年最高となり、日銀に公定歩合引き上げの決断を促している。利上げ期待が高まれば、円高、株高を誘発するだろう。

(八)銘柄観。

(1)新興市場は底入れが鮮明となった。現在は「初めは処女の如く」の段階であるが、「終わりは脱兎のごとく」まで行くのではないか。
(2)株式投資にリスクはつきものである。利益はリスクの大きさに正比例し、リスクのないところに利益はない。悪材料にさらされて大量の空売りを飲み込んだ加ト吉に注目したい。