2007/5/28

  2007年5月28日(月)
  新興市場から急騰銘柄も。
  自虐的弱気論の原因と行方。

(一)グリーンスパンの神通力。

(1)前回に私は、グリーンスパン前FRB議長が「三重野日銀総裁は景気を殺しすぎたと批判し、アメリカの金融政策の反面教師にした」ことを紹介した。
(2)そのグリーンスパン氏が先週、上海株は暴落必至だと発言して、上海よりも東京に大きな影響を与えた。グリーンスパン氏の神通力は現役を引退してもなお健在であった。
(3)グリーンスパン氏は「中央銀行は金融政策を早めに発動して行き過ぎたインフレとデフレを未然に防ぐ責任がある」という立場から日銀を批判しており、中国についても中長期の視点から早めの対応を促したと見るべきだろう。
(4)偶然の一致で私も前回、中国株は暴落の可能性があると述べた。しかし即座に暴落する可能性は低いと思う。第1に、上海株の暴騰はまだ始まって1年、相場が若い。波乱があっても早期に回復するだろう。第2に、中国人は上海A株で儲けた元を海外に持ち出す手段を持たないから、海外の株式市場に与える影響は限定的である。第3に、中国政府は08年に北京オリンピック、09年に中国共産党60周年、10年に上海万博という大きなイベントを控えており、株式市場の混乱を未然に防ぐ手段を講じるだろう。
(5)私はグリーンスパン発言のインパクトが各国の市場心理を反映していた点に興味を感じた。
(6)第1に、肝心の上海は殆ど反応しなかった。第2に、連日の史上最高値更新で過熱感があったニューヨークは適度なガス抜きとなった。第3に、大半の市場はニューヨークに準じて、影響が軽微であった。第4に、東京だけが暴落におびえ、立ち会い中も上海株に一喜一憂し、急落した。
(7)「東京は異常な自虐的弱気論に支配されている」という私の指摘が今回も証明されたと思う。

(二)反騰前夜の新興市場。

(1)しかしその東京市場で先週、変化の徴候が鮮明に現れた。暴落の泥沼に陥っていた新興市場で大きな下ひげが続出したのである。前回も指摘したが、今回の下ひげは特大で、マザーズ指数も大きな下ひげを記録した。
(2)新興市場底入れの理論的なタイミングも切迫している。その点をご理解頂くために、過去の事実を検証したい。
(3)竹中平蔵氏が金融担当大臣に就任した時、銀行の不動産担保融資の担保査定を異常に厳格化し、片端から不良債権と認定した。そのために銀行は巨額の貸倒準備金を赤字に計上し、UFJ銀行を初め多くの銀行が倒産に追い込まれた。しかし不動産相場が反騰に転じると不良債権は優良債権に一変し、貸倒準備金は赤字から黒字に逆転したから、06年3月期に銀行は巨額の黒字を計上した。その結果として1年前に銀行株が暴騰したのである。
(4)竹中大臣と全く同じ役割を、07年3月決算で公認会計士が演じた。
(5)カネボウの粉飾決算に荷担した責任を問われて日本最大の中央青山監査法人が事実上倒産した。恐怖心に駆られたすべての会計事務所が極端に保守的な会計監査に転じたために新興企業は突然、巨額の償却を強いられて、減額修正と赤字転落が続発したのである。
(6)しかし異常な会計監査は07年3月決算を最後に一巡した。3月決算の企業は5月末までに決算を発表する責任があるから、6月に入ると減額修正は急減する。
(7)同時に今期は大幅増益企業が続出するだろう。例えば100億円で買収した資産を30億円と査定された企業は前期に70億円の赤字を計上したから、今期にその資産を60億円で売却すれば30億円の利益が出る。06年3月期の銀行と同様に、今期は新興企業で大幅増益が続出する可能性がある。
(8)特に糞と一緒にたたき売られた味噌が急反騰する。例えばクラブ9が推奨したネクストは前期実績、今期予想とも利益倍増と発表している。GCAもまた業績が順調で、企業買収時代の大本命である。T-ZONEも株主に有利な合併を発表した。
(9)よって新興市場は濃淡の差はあれ、総じて反騰に転じる可能性が高い。

(三)サラ金も急反騰へ。

(1)サラ金も法改正に対応して、前期に巨額の引当金を積まされた。大株主の銀行も前期決算で持ち分に応じた引当金を積んだ。
(2)日本では高利貸しと呼ばれるサラ金はどんなドラマを見ても必ず敵役である。サラ金は反社会的なビジネスと見られていただけに激しく暴落した。
(3)しかし巨額の赤字計上は一過性で、法改正を契機に「ヤミ金」が淘汰されて、大手の寡占が進むだろう。
(4)暴落したサラ金株を外国人が一手に買った形跡がある。新興企業株と同様に、一部市場の穴株となるのではないか。

(四)自虐的弱気論の原因と行方。

(1)前回に私は、日本のインテリの自虐的弱気論は江戸時代の武士階級のやせ我慢に発していると述べた。
(2)江戸時代には身分制度が固定していた。武士は政治を独占する支配階級、農民は米を生産するから中間層、何も生産しない商人は最下層、と決められていた。しか米で給料を受け取っていた武士階級は貨幣経済が発達するにつれて没落し、商人から成金、大金持ちが輩出した。経済的実権を失った武士階級はメンツを維持するために「武士は食わねど高楊枝」と、腹が減っていてもつまようじをくわえて飯を腹一杯食ったかのようにやせ我慢を張ったのである。
(3)一高寮歌でも「栄華の巷(ちまた)低く見て」と歌われて、清貧に甘んじるやせ我慢の思想は官僚、エコノミスト、マスコミ等、日本のインテリに受け継がれた。
(4)しかし資本主義社会では儲けることが企業の目的である。インテリといえども心底では成金や成功者に対する嫉妬が潜在しているから、三重野日銀総裁や竹中大臣や公認会計士の成金つぶしに遭遇すると、それ見たことかとばかり、成金批判が噴出する。自虐的弱気論はインテリの屈折した感情を表現していると私は思う。
(5)それゆえ「弱気派は理路整然と相場を間違う」という格言が生まれたほど、日本の弱気論は理論的で説得力がある。
(6)しかし今や世界は高度情報化社会となり、どんなに巨額の資金もリアルタイムで国境を越える時代となった。
(7)グリーンスパンのスピーチが瞬時にして世界を駆けめぐる時代に、日本だけがいつまでも孤立した自虐的弱気論の穴の中に閉じこもっていることは不可能だろう。