2006/6/26

  2006年6月26日(月)

(一)梅雨に台頭する相場、侮る(あなどる)なかれ。

(1)上の格言を私は北浜の長老畠中平八氏から教わった。氏は中山製鋼を初め数々の仕手戦で、買い方の中心におられた。畠中氏 は86才の現在もかくしゃくとして強気を主張しておられる。
(2)日本の相場の格言はみな大阪に発している。西宮や今宮の「えべっさん」も天満の「天神さん」も大阪の神様だから、東京には「えびす天井」も「天神底 」もない。米相場は江戸時代に堂島に始まり、株式相場は第2次世界大戦まで北浜が中心であったからである。
(3)しかし現在では相場の中心は東京にある。もっと正確に言えばニューヨークのウォール街にある。今や東京市場の主導権は「外国人」に握られてしまった。
(4)それでも格言は死なない。アメリカにも「サマーラリー(夏相場)」という世界で最も知られた格言がある。
(5)日本は梅雨空で気勢が上がらない。アメリカは夏休みでファンドマネジャーがいなくなる。
(6)そんな時期だからこそ「梅雨に台頭した相場」が「サマーラリー」につながれば大相場となる。その大いなる意外性に期待したい。

(二)富山化学について。

(1)日経は先週末、埼玉大学付属病院で200人の入院患者が院内感染にかかり、6人が死亡したと報じた。院内感染を防ぐ決め手とな る抗生物質はいまのところ存在しない。埼玉大学の病原菌に富山化学のガレノキサシンが有効かどうか、今後の検証を待ちたい。
(2)50年前にはペニシリンがあれば、大概の感染症は治った。ペニシリンに続く第2世代、第3世代の抗生物質が出現して、抗生物質の黄金時代が続いた。
(3)しかし、病原菌の方にも抗生物質に対する耐性ができて、今では肺炎も簡単には治らない。国連は新型の鳥インフルエンザが流行すれば3億人が死ぬという予測を発表している。
(4)富山化学は新型抗生物質ガレノキサシンを年内にアメリカで発売し、順調に行けば来年には日本とヨーロッパで発売する。ガレノキサシンは従来の抗生物質と異なる分子構造を持っているから、耐性を備えた広範囲の病原菌に利くことが臨床試験で証明された。
(5)そのガレノキサシンは鳥インフルエンザには効かない。しかしユタ州立大学は富山化学が開発したT-706が動物実験段階ながら鳥インフルエンザにきわめて有効であるというデータを学会で発表した。現在はFDA主導でフェーズ1入りの準備を進めているという。そのアメリカでブッシュ大統領は数千万人が鳥インフルエンザにかかり、200万人が死ぬという予測の下に、国家機関を横断したプロジェクトチームを立ち上げた。
(6)富山化学の開発力はさらに驚異的である。アルツハイマー型認知症治療剤T-817MAが今秋にはフェーズ1を終了し、ライセンス供与の交渉に入る。
(7)また抗リュウマチ剤T-5224は先週、日本政府から20億円の支援を受けてフェーズ1に入ったと発表した。
(8)いずれも世界の製薬業界が開発を競っている新薬で、成功すれば年商2,000億円以上の市場規模が見込まれる。もし5年後に4つの大型新薬が出そろえば、世界の製薬業界の勢力図を塗り替えるほどのインパクトを与えるだろう。
(9)ガレノキサシのライセンス導出金額は520億円であるが、マイルストーン方式に従ってその過半をこれから取得する。鳥インフルエンザ治療薬はまだ前臨床の段階であるにもかかわらず、複数の製薬大手からライセンス取得の引き合いが入っているという。
(10)富山化学は大正製薬に20%の増資新株を割り当てて販売部門を委託し、現在は新薬開発に特化している。大正製薬は5,000億円の利益を蓄積した超優良企業で、富山化学の新薬開発の後ろ盾となった。
(11)しかし富山化学は次々に臨床段階を迎えて巨大化した開発費用を、開発途上の新薬のライセンスを他社に導出することによって自前でまかなっている。
(12)世界中の製薬会社は巨大化した開発費用をまかなうために大合併を繰り返し、今では国際的な寡占時代に突入した。
(13)富山化学のような弱小企業が開発費用を自力でまかない得ることがすでに奇跡的で、一連の新薬がいかに有望かを証明していると私は思う。
(14)私の目が節穴か、株式市場の目が節穴か。歳月の判定を待ちたい。

(三)ときは今、あめが下しる、五月かな。光秀。

(1)NHKの大河ドラマは現在、明智光秀が織田信長を倒し、その明智光秀を豊臣秀吉が倒した下りにさしかかっている。
(2)明智光秀は主君信長を殺したゆえに陰湿な謀反人と見られがちであるが、間違いである。戦国時代は下克上の時代で、どの武将も天下制覇を夢見た。織田信長自身も主家と兄弟を殺して台頭した。長宗我部元親は四国を平らげ、伊達政宗は東北を平らげたが、京都を制した豊臣秀吉が一歩先んじた。織田政権のナンバー2である光秀が信長ごとき粗暴な主君を倒して自ら天下を取ろうと思ったのは当然である。
(3)明智光秀は本能寺で信長を討ち取る直前に、領地内の愛宕神社に当代一の連歌師里村紹巴を招いて連歌を興行した。表題の「ときは今」の句は連歌百韻の冒頭で光秀が詠んだ発句(ほっく)である。
(4)「とき」は源氏の名門土岐氏を指すと同時に土岐一門の明智氏を指している。「あめが下」は文字通り天下の意である。
(5)西暦1582年6月21日、今と同じ梅雨の盛りであった。光秀は「土岐源氏の正嫡である自分が、眼下の桂川にあふれる梅雨を切って落として天下を取る」と宣言し、詠み納めた連歌を愛宕神社に奉納するや、一直線に本能寺を襲った。
(6)気力にあふれ、天下人の風格と格調を備えた名句である。光秀は公家に連なる土岐氏の教養を身につけていた。もし光秀が天下を掌握していれば、420年前に日本は世界に冠たる文化国家を構築しただろう。

(四)株式市場は戦国乱世。

(1)株式市場は戦国乱世だと私は思う。
(2)戦国時代の武将は土地争いに命を賭けたが、株式市場の投資家は金銭争いに命を賭ける。
(3)戦国乱世では土地を制する者が覇者となったが、資本主義社会では金銭を制する者が覇者となる。金銭を軽視する振りを装い、自ら財産を賭けず、真剣で勝負しないエコノミストやマスコミを私は信用しない。
(4)ホリエモンも村上氏も天下取りにあと一歩と肉薄したところで一敗血にまみれた。その心境は信長や光秀と同様に無念であったには違いないが、乱世の英雄であるゆえに挫折もまた乱世の理(ことわり)であると知っている。投資家はみな乱世を自力で生き抜く覚悟が必要である。
(5)村上氏が東京スタイルの大株主に登場したとき、私は即座にグリーンメーラーと断じて不快感を述べた。ライブドア事件では堀江社長の表裏のない人柄を弁護した。福井氏はグリーンメーラーの村上氏に共鳴した時すでに日銀総裁の見識を失っていたから、辞任は当然だと論じた。
(6)福井氏は優れたエコノミストであるが、真剣勝負の博打場に片足をかけたために返り血を浴びた。野に下って一人の投資家として株式投資を実践すれば、成功されるのではないか。
(7)私は株式市場を戦国乱世と見ているから人物評価が世間一般の常識とは異なる。しかし視点は不動で公平だと思う。相場観、銘柄観も頑固でぐらつかない。
(8)今年の指標株に掲げた3銘柄は現在も不変である。しかし時間と共に濃淡が変わるのはむしろ当然だろう。
(9)なぜ富山化学ばかりを取り上げるのかという批判を受けるが、富山化学は業績ではなく、新薬の開発力を買う相場である。時間の経過と共に実現の可能性を増しているから、強気論を補完しているのである。