2006/6/19

  2006年6月19日(月)

(一)東京市場を覆っていた深い霧・第1幕。

(1)福井日銀総裁が村上ファンドに出資していたという報道を見て、私はこれで日本の株式市場を覆っていた黒い霧が晴れると思った。
(2)検察庁、金融庁が村上ファンドの出資者名簿を公表すれば、福井総裁だけではなく政界、官界、財界から大物の名前が続出する。
(3)村上ファンドとの関係が表面化することを恐れて、福井総裁を含めた村上ファンドの投資家が資金の引き上げに動き、その情報をつかんだ連中が先物市場でカラ売りを仕掛けたと見れば、不可解な株価暴落の背景が見えてくる。
(4)思えば、黒い霧暴落の第1幕は2月のライブドア事件であった。
(5)ライブドアは氷山の一角で、新興市場の多くの企業が投資組合を設立して株価操作の隠れ蓑としていたから、金融庁は投資組合の実態を把握するために出資者の名簿提出を求めた。
(6)投資組合の出資者の中には政界、官界、財界の他に様々な闇資金が混在していたから、彼らは摘発を恐れて一斉に資金を引き揚げた。これが新興市場の大暴落を招いた原因であった。
(7)しかし金融庁は治的圧力を受けて一旦は名簿提出の要求を取り下げた。
(8)そのため新興市場の暴落はひとまず沈静化したが、5月になると暴落が一部市場に飛び火し、ついには全面安に発展した。
(9)第1幕はライブドア等の投資組合、第2幕は村上氏の投資ファンドであった。

(二)東京市場を覆っていた黒い霧・第2幕。

(1)黒い霧暴落の第2幕は村上ファンドの捜査と平行して進行した。
(2)投資組合は短期間に解約できたが、投資ファンドは契約期限まで資金が受け取れない。契約期限は12月が多いという。
(3)福井総裁は2月に1,000万円の解約を申し出て、現在もまだ資金を受け取っていない。それゆえこれから村上ファンドの出資者名簿が続々と表面化する可能性がある。
(4)しかし検察庁の捜査は2月のライブドア事件の直後からすでに村上ファンドに飛び火していたのである。
(5)5月に村上ファンドは金融庁と検察庁の追求を逃れるために本社をシンガポールに移した。
(6)同時期に村上ファンドの事実上のオーナーであるオリックスは45%の資本出資を解消したと発表した。
(7)村上、宮内両氏が「語るに落ちた」点を推定すれば、オリックスの宮内会長は小泉内閣の各種諮問委員会を代表する大物だから、宮内会長を介して村上ファンドに出資した政、財、官の要人は多数に上った可能性がある。
(8)福井総裁が村上氏程度の格下に共鳴したという釈明も不自然で、宮内氏に誘われた可能性もある。結果として宮内氏と福井氏が村上ファンドの信用を補強した可能性もある。
(9)小泉首相が突然重要法案の審議を投げ出し、国会の会期延長を中止した点も不自然である。捜査の進展と共に自民党内から村上ファンドの出資者が続出すると知って、混乱を回避した可能性がある。

(三)福井日銀総裁のどこが問題か。

(1)福井総裁は株主軽視の経営姿勢を正すと主張した村上氏に共鳴して1,000万円を投資したと述べている。
(2)確かに日本のオールドエコノミーの中には巨額の株式や不動産の含み益を蓄積しながら、その含み益を期間利益や配当に反映していない企業が多い。これに対してアメリカの企業は含み益を放置すると買収解体を業とするハゲタカファンドや札束で恐喝するグリーンメーラーの餌食となるから、経営者は先手を打って含み益を積極的に企業買収や自社株買いに投入する。
(3)村上氏は経営者の怠慢を正す正義の味方だと自画自賛したが、現実の手法はグリーンメーラーそのものである。例えば阪神電鉄では52%の絶対多数を握ったのだから自ら社長に就任して志どおりに経営改善を断行できた。にもかかわらず最後まで阪神電鉄に買い戻しを要求したのだから、村上氏が追求したのは恐喝による利益であって、高邁な志は恐喝の手段に過ぎなかった。
(4)アメリカでもグリーンメーラーやハゲタカファンドは文字通りアウトロー(無法者)であって正常な投資家ではない。正統派を代表するウオーレン・バフェット氏は大株主として多くの企業を優良企業に育て上げた。日本でも竹田和平氏が四季報の大株主に登場 すると、それだけで人気を集めるほど投資家の信頼が厚い。長期投資こそ投資家の王道である。
(5)福井総裁ほどのエコノミストに巾着切りの村上氏と長期投資の王道を歩むバフェット氏の区別がつかないはずがない。もし区別がつかなかったとすれば日銀総裁としての見識に重大な欠陥がある。
(6)福井総裁の辞任は当然だろう。

(四)黒い霧は晴れる。

(1)民主党の小沢党首は国会で福井総裁とその他の村上ファンドへの出資者を徹底追求すると述べていたにもかかわらず、尻切れトンボに終わりそうである。
(2)噂によれば、村上ファンドへの出資者の中には民主党代議士や、財界の民主党支持者もいる。深追いすれば民主党自身が返り血を浴びる事がわかったからだと言う。
(3)残念至極ではあるが、それでも株式市場を覆っていた黒い霧は晴れる。
(4)株式市場には「知ったらしまい」という格言がある。闇の中に潜むお化けは不気味で怖いが、お化けの正体がわかれば、不気味でも怖くもないからである。
(5)マスコミの追求を受けて事件は燃え広がるだろうが、投資家は今こそ前を見るときである。お化けの実態を知った日本の株価は再度高値に挑戦するだろう。
(6)しかし東京市場の後遺症はしばらく尾を引く。通常ならば下げ相場に逆行して鮮烈に反騰を先導する仕手株が登場するタイミングであるが、今回は見あたらない。
(7)私はライブドアや村上ファンドの摘発で、株式市場から投機資金や正体不明のブラックマネーが逃げ出してしまったからだと思う。
(8)「水清ければ魚住まず」である。投機資金は必ずしもクリーンではないが、清濁を併せのんで、リスクに挑戦する気迫がある。検察庁や金融庁がリスクマネーを徹底的に排除すると株式市場の活力もまた排除されるのである。
(9)しかし不透明な相場は終わるだろう。新たなリスクマネーの出現に注目したい。

(五)住友金属鉱山は買収対策を急げ。

(1)私は(三)で日本のオールドエコノミーには巨大な含み資産を蓄積した企業が多いが、アメリカ企業に含み益は存在しないと述べた。
(2)日本で、それゆえ世界で最大の含み資産を保有する企業は住友金属鉱山だろう。
(3)住友金属鉱山自身は今年の3月決算発表時に保有鉱山の含み益を4兆円と開示した。昨年は3兆円、一昨年は2兆円であったから、新規の鉱山取得と非鉄・貴金属相場の上昇で3年連続して1兆円に達する巨額の含み益を積み上げた。
(4)時価総額は7,500億円だから、1兆円で買収したとしても3兆円の含み益が取得できる。その一部を切り売りすれば買収資金は即座に回収できるのだから、こんなにわかりやすい買収候補は滅多に見つからない。
(5)住友金属鉱山は世界で最も買収されるリスクの高い企業である。第1に、資源相場は歴史的な上昇トレンドをたどっている。第2に、PER13倍は理論的にも割安が鮮明である。第3に、南ア政府が鉱山会社の国有化政策を強化し、これを受けて世界的な非鉄、貴金属鉱山の買収、合併が進行している。第4に、住友金属鉱山は買収に対してあまりにも無防備である。第5に、来年には日本でも株式交換による買収が可能となる。そうなれば株価が割高で時価総額 の大きい方が絶対有利である。
(6)住友金属鉱山が選択しうる現実的な買収防衛策は限られている。第1に、三井住友グループとの株式持ち合いによる安定策。第2に、経営陣と住友グループが完全に買収して上場を廃止する。万年割安では弊害ばかりで上場を維持するメリットがない。第3に、含み資産を積極的に開示して株価を適正な水準に引き上げる。
(7)いずれの防衛策も株価が上がれば上がるほどコストが上がり、実行が困難となるから、早期の決断が必要である。
(8)住友金属鉱山は名実ともに日本唯一の資源株である。世界的な資源争奪戦争時代に備えて、経営者は果断な防衛策を急ぐ責任がある。