2006/6/12

  2006年6月12日(月)

(一)激化する資源争奪戦争。

(1)ウォール街では、FRBの議長に就任したバーナンキ氏の金融政策に対する批判が高まっている。インフレ抑制を重視する余り、景気を悪化させかねないという批判である。
(2)私も今世界中で進行している物価の上昇を金融政策によって阻止することは不可能だと思う。物価上昇圧力はアメリカの景気過熱ではなく、商品需給の逼迫が原因だからである。
(3)全世界の人口60億人に対して、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)と呼ばれる新興4ヶ国だけで半分の30億人を占めている。その30億人を擁する4ヶ国が2ケタ成長を続けているのだから、工業用資材から食料品に至まで、ありとあらゆる商品が不足する傾向が鮮明となった。
(4)ヨーロッパの内部でも、新たにECに加盟した旧東ヨーロッパ各国が経済成長を牽引している。
(5)戦後の世界経済は欧米と日本が牽引してきたが、その時代は終わりつつある。人口超大国の高度成長は石油ばかりかすべての商品相場を暴騰させたから、資源を保有する中南米、アジア、アフリカのナショナリズム(民族主義)に火をつけた。彼らは石油、天然ガス、鉱物、農産物等の資源を外国資本の支配から国有化へ、という動きを次々に表面化させている。
(6)アメリカがいくら金利を引き上げても、いったん弾みがついた新興国群の爆発的な経済成長と物価インフレを阻止することはできない。
(7)バーナンキ議長は日本の大半のエコノミストと同様に、世界経済の歴史的、構造的、革命的な変化が理解できていないのではないか、と私は思う。

(二)続・激化する資源争奪戦争。

(1)日経が6月6日から連載を始めた「資源ウォーズ、第1部ナショナリズム台頭」を読むことをクラブ9の読者に強く勧めたい。国際的な資源争奪戦争の現状を生々しく報道している。
(2)例えば連載の第1回で、中国は銅、ニッケルの暴騰がアルミに波及すると見て、アルミの原料であるボーキサイトの確保に走り、ベトナムで国際資本との争奪戦を演じた状況を報じている。
(3)私は水産株の値上がりが偶然だとは思わない。特にヨーロッパでは鳥インフルエンザの流行で鶏肉の需要が落ち込んでいるから、投資家が鶏肉の代替需要は水産資源に向かうと先見するのは当然である。
(4)中国の石油需要は2020年には56%増の5億トンに達するという。東シナ海の石油資源をめぐる日中の紛争が激化するのもまた当然である。
(5)今回の石油の大暴騰は第1次オイルショック、第2次オイルショックよりもはるかに大幅で長期に及んでいるが、第3次オイルショックとは呼ばない。需給逼迫は一時的なショック現象ではなく、構造的で、後戻りしないことが明らかだからである。

(三)商品市場に強いアメリカ。

(1)アメリカはアラスカの大油田やテキサス等、自国の油田を温存しているが、それでもアメリカの石油メジャーは1兆円単位の巨大な利益を計上している。
(2)アメリカは世界各地の石油に利権を持つばかりか、石油掘削からパイプラインの建設まで、石油周辺事業の技術力、機械力、競争力が傑出している。
(3)アメリカは主力の自動車産業が不振でも税収入が急増し、ブッシュ大統領は新たな減税を断行した。石油、非鉄金属、穀物等、資源戦争の全域においてアメリカ企業は優位に立っている。
(4)日本でも、石油、石油化学、鉄鋼、非鉄、機械、海運、繊維、不動産、総合商社、金融等の構造不況業種が一斉に大復活し、大幅増益を達成している。自動車もまた省エネ技術で先行し、世界シェアを大幅に拡大している。ハイテクばかりを重視し、市況産業を軽視する人には、世界経済と日本経済の構造変化が見えない。

(四)続・商品市場に強いアメリカ。

(1)昨年、アメリカではヘッジファンドの社長の年俸が激増した。1位ジェームズ・サイモンズ1,700億円、2位ブーン・ピケンズ1,600億円、3位ジョージ・ソロス1,000億円で、日本の投信業界では想像もできない巨額の報酬である。
(2)そこには日本で誰も気がついていない大きな秘密がある。彼らはそろって商品ファンドの組成に先行して大もうけしたのだ。
(3)投資家サイドから見ても年金や大学の基金など日本では最も保守的な資金が、アメリカでは不動産投信にいち早く投資して大もうけし、今回は商品投信に投資して大もうけした。日本の年金が株式投資でさえもリスクを恐れて資金を引き揚げているのに対し、欧米の年金はハイリターンを求めて積極的にリスクに挑戦する。年金の運用担当者もまた成果によって地位と収入を競う競争社会の例外ではないからである。
(4)現在の商品相場は、先行したヘッジファンドが利食いに回り、調整期に入っているが、商品の需給逼迫が続く限り彼らは再度高値に挑戦するだろう。
(5)日本は不動産投信で最後発国となったために不動産の底値を外国資本にさらわれたが、商品投信の組成でも世界の後発国となりかねない。
(6)2年前までは、商品取引は実需を扱うプロが主役であったが、今では新興国の政府や金融機関等のアウトサイダーの参入で資金量が飛躍的に拡大し、相場変動が過激となった。商品相場と株式市場の連動性は今後も高まる一方だろう。
(7)アメリカのヘッジファンドは伝統的に株式ばかりか、商品、為替、金利先物等すべての金融関連商品を先物市場で売買するから、ファンドマネジャーの視野がけた違いに広く、変化のスピードが速い。
(8)私には現在の世界の株式市場の混乱は彼らのスピードの速い進退に撹乱されて起こった現象と見える。

(五)下げ相場は最終段階か。

(1)日経ダウは2日に続いて9日にも、下ひげを伸ばした陽線となった。2週連続の金曜日の後場高は相場に抵抗力がついてきたことを示している。
(2)ニューヨーク市場では弱気の人でも下値はあと200ドル、1週間程度と見る意見が多い。
(3)クラブ9の3銘柄のうち、最も下げ幅が大きかったNIF SMBCは叩かれても叩かれても買い玉がわきだしてくる。
(4)住友金属鉱山と富山化学も投げ売りにさらされているが、抵抗力もついてきた。
(5)業績、材料とも、3銘柄の指標性は不変だと思う。
(6)下げ相場の焦点は新興市場から日経ダウを支える本丸の大型株に移ってきた。下げ銘柄の一巡で信用残の整理も一巡する。
(7)サッカー・ワールドカップが終わるまで、という意見もあるが、私は下げ相場で下げの条件を探すよりも上げの条件を見つめたい。

(六)ホリエモン対村上。

(1)私は終始一貫堀江氏を支持し、村上氏を批判して来た。
(2)ホリエモンはオンザエッジの買収以来、企業買収による時価総額拡大一直線の経営で一貫している。表裏のない行動力によってホリエモンの愛称で呼ばれ、無数の投資家が財産を託した。
(3)ホリエモンは「徒手空拳で高度成長を追求するためにあえてグレーゾーンに活路を求める」と宣言し言葉通りに実践した。逮捕はされたが、問題の投資組合の決算処理についても「グレーであっても黒ではない」という主張を通し、検察の追求に屈しなかった。
(4)投資組合や投資ファンドを規制する法案は先週ようやく国会を通過したばかりで、新法の規制はホリエモンが活用した時期の投資組合に遡及しないから、ホリエモンを裁判で有罪と断定するには無理があると私は思う。
(5)これに対して村上氏の手法は買収をちらつかせながら買い占めた株の買い戻しを要求するグリーンメーラー(札びらによる恐喝)である。
(6)その典型は阪神電鉄で、所有株式は52%に達して事実上買収が完了していた。つまり自ら社長に就任して日頃の主張である投資家のための経営を実行する条件を充足したにもかかわらず、最後まで嫌がらせを並べ立てて買い戻しを要求した。村上氏が本当に欲しかったのは会社でも経営権でもなく利ざやだけであったことは明白で、その言動は限りなく恐喝に近い。
(7)ホリエモンがグレーゾーンで勝負すると言明していたのに対して、限りなく黒に近い手法で荒稼ぎした村上氏は自らを常に真っ白で正義の味方、株主の味方だと主張していた。
(8)よって私は昔も今もホリエモンには共感するが村上氏には共感できない。