2006/3/20

  2006年3月20日(月)
  彼岸底の条件が成熟。
  ライブドアの行方。

(一)世界の株式相場と商品相場。

(1)欧米の株式市場はそろって新値を追っている。
(2)特に新興のロシア、東欧が好調である。
(3)アジアでも新興のインド、中国が好調である。
(4)商品相場もシカゴの商品指数が上昇基調を維持しており、金も反騰に転じた。
(5)株式、商品とも世界的に順調な拡大上昇が続いている。
(6)1〜3月に日本だけが低迷した原因は、第1に日本固有の事情、第2にライブドア事件だろう。

(二)日本の株価低迷は三月決算がらみの特殊事情。

(1)欧米企業の決算が12月に集中しているのに対して、日本は3月に集中している。日本の株式は過去1年間に15年ぶりの大幅高を演じたから、3月決算を控えた金融機関が大規模な利益確定の売りを出した。
(2)年金の運用各社は大量の株式を売却し、3月決算で大型の売却益を計上した。
(3)銀行は長期国債の急落による損失を株式の売却益で補填した。
(4)証券会社は空前の好決算を早期に確定し、ディーラーの持ち玉をゼロにした。
(5)かくして決算がらみの売却は先週でほぼ一巡した。
(6)金融機関は現金比率を高めて29日以降の新年度相場に備えている。
(7)今年は格言通りに「節分天井、彼岸底」を形成する可能性が高い。
(8)1〜3月の反動で4〜6月には大幅高が期待できるだろう。

(三)新興市場に深刻な打撃を与えたライブドア事件。

(1)2〜3月に新興市場が大暴落を演じた。特にマザーズの指数はあっという間に半値に崩壊した。突然の異常な大暴落はライブドア事件の余波だろう。
(2)検察はライブドアの投資組合による運用益の決算処理方法が証取法に違反していると見ている。しかしライブドア以外にも多くの新興企業が投資組合で上げた運用益を不透明な方法で処理していたから、金融庁は投資組合の大口出資者の名簿の提出を求めようとした。
(3)投資組合の資金の中には新興企業のオーナー社長や内外の闇資金が混在していたから、摘発の連鎖を恐れて大口出資者が一斉に資金を引き揚げた。これが突然の暴落の真相だという情報がある。当たらずといえども遠からず、だろう。
(4)金融庁は名簿の提出に対する反対論が強い上に株価暴落があまりにも急であったために名簿提出問題を見送り、暴落はようやく終息したという。
(5)投資組合の利益処分問題は金融庁でも証券監視委員会でもなく、検察庁によって摘発された。その点にライブドア事件の政治性が感じられる。
(6)ライブドア事件が起こった今になって、投資組合自体を連結決算の対象に入れてはどうかという議論が浮上している。投資組合の利益処分に今までは確たる基準が無かったからであろう。
(7)ライブドアは架空の利益を計上したわけではないから、上場を廃止したからといって利益が消滅するわけでも、倒産するわけでもない。それどころか子会社を含む事業と人材には大いに魅力があり、USEN以外にも買収に乗り出す企業やファンドが現れる可能性が高い。
(8)裁判が結審するまでには長い歳月が必要で、その間はライブドアも堀江社長も推定無罪である。マスコミの断罪は公平ではない。
(9)フジテレビや個人投資家の損失補填も簡単には決着しないだろう。

(四)リスクに挑戦する人とリスクから逃げる人。

(1)ビジネスでも投資でも、リスクを取らない人に成功のチャンスは乏しい。堀江社長はリスクを取りに行って破綻したが、リスクを乗り越えるノウハウはリスクに挑戦しなければ築けない。リスクから逃れようとする人はかえってリスクのワナにはまりやすい。
(2)産経新聞はニッポン放送を作り、ニッポン放送はフジテレビを作った。フジテレビがフジサンケイグループの稼ぎ頭となった後も大株主はニッポン放送であったから、ニッポン放送を買収すればフジテレビが買収できるといういびつな株主構成が残った。その欠陥を突かれた日枝会長は堀江社長に屈服したばかりか、不可解にもライブドアの大株主となり、取締役を派遣する緊密な関係を築いた。しかしライブドア株で345億円の損害を受けると、責任はなかった、損害賠償を請求すると述べている。
(3)小泉首相、竹中大臣、武部幹事長にはライブドア人気をあおり立てた責任がある。しかし大株主となり、取締役を派遣したフジテレビにはもっと大きな責任がある。
(4)日枝会長はオーナーの鹿内家を追放してフジサンケイを乗っ取ったグループの首魁である。当時の日枝氏はリスクに挑戦し、颯爽としていたが、今回はリスクから逃れようとしてリスクの連鎖にはまりこんだように見える。
(5)堀江社長はラブドアの時価総額1兆円に挑戦し、逮捕されても頑として無罪を主張している。私はライブドアにもホリエモンにも全く興味がなかったが、逆境にあって動じない信念を見て、共感するところがあった。
(6)USENの宇野社長はフジテレビが保有するライブドア株を個人のリスクで肩代わりした。日枝会長の一連の対応に比べると天地の差がある。宇野社長の経営センスはリクルート出身者に共通している。リクルートは創業以来、すべての社員が早期退職を競う自主独立の気風が充満しているから、新興市場に多数の傑出した経営者を送り出している。
(7)ライブドア事件は図らずもリスクに対処する経営者の人間模様を浮き彫りにした。

(五)ライブドアの行方。

(1)USENがフジテレビからライブドア株13%を買い取っても、経営権の取得にはほど遠い。USENの他にもすでに外資系の3投資グループが新しい大株主に浮上した。
(2)事件発生時に4億株台を記録したライブドアの出来高が現在は1,000万株台に激減したから、すでに投資ファンド等が相当数の株式を取得したと思われる。
(3)USENはこれらの投資ファンドに対抗して経営権を確保するために、自社株交換によるTOBを仕掛ける可能性がある。自社株との交換であれば、USENは新規に資金を調達する必要がない。個人投資家は上場廃止となるライブドアよりも成長力を期待できるUSENを選ぶだろう。
(4)自社株交換によるTOBは、現在は日本企業のみに認められており、外国資本は来年以降に認可される。株式交換はUSENに有利である。
(5)その場合、USENのTOBが成立する可能性は高いが、ハゲタカファンドが連合して対抗策を繰り出す可能性もある。争奪戦が上場廃止後に持ち越される可能性もある。
(6)ちなみに西武鉄道は上場廃止の決定を受けて株価が700円から200円に暴落したが、最終株価は500円に急騰した。上場廃止後に村上ファンドが1,000円、ゴールドマンサックスが1500円の買収価格を提示した所を見れば、複数の買収ファンドが西武鉄道の資産価値を高く評価し、相当数の株式を買い集めていたと思われる。
(7)私は西武鉄道が事件となったとき、リアルタイムで再三投資価値を指摘し、西武鉄道の上場廃止に異議を唱えた。東証は上場廃止を投資家保護のためだと主張するが、事実を見れば個人投資家が底値で損切りを強制されている。
(8)ライブドアも株価が実態価値を下回り、投資家に不利益な結末となるだろう。
(9)西武鉄道は堤会長が有罪を認めたが、ライブドアは堀江社長が無罪を主張している。東証が責任回避に走らず、本気で個人投資家を保護するつもりならば、裁判で決着するまでは特設ポストの売買を継続するなどの措置を講じるべきではないか。