2006/3/6

  2006年3月6日(月)
   国債の暴落が始まった。
   しかし株価は上がるだろう。

(一)好調な世界の株式と商品。

(1)世界の株価はきわめて順調に上昇過程をたどっている。直近では特に2大人口超大国である中国とインドの急騰が目を引く。
(2)インドの株価は昨年11月以来急騰一途で、直近の2週間は連日のように最高値を更新している。インド株投信は日本でも人気が高い。
(3)しばらく低迷していた中国の上海B株が、今年に入って40%近い暴騰を演じた。香港も日本株の急落に逆行して、新値街道を躍進している。調整期を迎えていた中国経済が再び拡大成長期に入ったと感じさせる。
(4)ヨーロッパ各国の株価は長期の上昇波動を堅持している。
(5)アメリカの株価も持ち合いを上放れたばかりである。
(6)世界的な景気拡大を受けて、シカゴ商品は高値圏を維持している。
(7)ニューヨーク金は短期間に調整を終えて、572ドルの高値更新まで、あと一息に迫っている。
(8)石油相場は60ドル台を維持し、世界景気の拡大で100ドルを目指すという強気論が台頭している。
(9)当然ながらオイルマネーは衰えない。オイルマネーはヨーロッパを経由して世界の主要な株式市場に流入し、世界的な株高基調を支えるという構図は不変である。

(二)不可解な日本の急落。

(1)好調な世界と対照的に、2月には日本だけが急落した。
(2)オイルマネーが日本株からヨーロッパ株に乗り換えたという見方があるが、ヨーロッパの上昇基調は一貫しており、変調の兆しは見えない。
(3)売買手口から見た主要な売り手は年金と、個人の信用取引の投げである。
(4)特に公的年金は、常に売り方の主役である。運用資産のうち株式の構成比を最大11%に限定しているために、株価が上昇すれば自動的に売却するのである。
(5)問題は株式を売却した資金で大量の国債を買っている点にある。後述するように国債相場はすでに下落し始めており、暴落必至の様相を呈している。
(6)公的年金は3年以内に国債の暴落によって10兆円単位の大損害を受ける可能性がある。この点については(五)で再説したい。

(三)金利が上がれば株価は上がる。

(1)金利が上がれば株価が下がるという弱気論がエコノミストやマスコミで横行しているが、机上の空論である。
(2)例えば、1980年代後半に日本では長期金利が急騰したが、高金利をものともせず、株価と地価が大暴騰した。当時は暴騰した株式と不動産の担保価値が上がり、記録的な資産インフレがスパイラル状に進行した。
(3)現在の日本も過剰流動性が増幅する条件がそろっている。竹中大臣が金融担当大臣として株式と不動産の即時売却を強制するハードランディング(強制着陸)政策を強行したが、暴落は短期間に終息した。企業と銀行がたたき売った資産を外国人投資家が一手に買い向かい、その後も外国人の資金量は急増一途をたどっている。政府のデフレ政策を外国人投資が帳消しにしているのである。
(4)竹中大臣は現在も金融政策の転換は時期尚早と主張している。資産デフレが深刻化すると主張した竹中大臣とすれば当然の弱気論であるが、外国人投資家の圧倒的な資金量を軽視している。
(5)外国人投資家が日本の株式と不動産を猛然と買い進んだ理由は明快である。日本だけが世界的な資産インフレに逆行し、株価と地価の割安が鮮明であったからである。
(6)マネーには国境がない。世界的な過剰流動性が日本の金融政策を苦もなく乗り越えている。
(7)特にこの2年間はオイルマネーが参戦し、外国人の資金量はさらに拡大した。
(8)しかもすでに国債が急落した。株式や不動産を売って国債市場に逃避していた資金が、国債から株式へ大逆流するドラマが進行するだろう。
(9)金利が上がれば株価が下がるという論理の間違いを次項で論証したい。

(四)暴落前夜の国債相場。

長期国債10年264回

(1)日銀総裁はジャブジャブ金融を終わらせるが、公定歩合ゼロ政策は堅持すると述べている。
(2)しかし日銀の配慮にもかかわらず、長期国債の利回りはすでに急上昇し、暴落へスタートを切った。
(3)チャートは10年国債の指標銘柄である264回債(クーポンレート1.5%)の週足である。
(4)金利は過去半年間に1.05%から1.58%へ、0.58%も上昇し、単価は103円80銭から99円40銭へ、4円40銭も急落した。半年前に10年国債を103円80銭で買った人はすでに4円40銭の損害を受けた。年間配当の1円50銭はとっくに吹っ飛んでしまっている。
(5)10兆円の10年国債を保有する銀行は過去半年間に4,400億円の損害を受けたことになる。今後は長期金利が1%上昇するたびに、1兆円の損害を受ける。
(6)ちなみに戦後の国債の平均利回りは6.5%だから、10年国債は数年後に半値に大暴落する可能性がある。
(7)10年国債の相場は10年分の金利を織り込んで変動するから、振幅がきわめて大きい。しかも全銘柄が同じ方向に動くから、気がついたときには売り一色となり、売ろうとしても売れない。日本国債を持たない外国人投資家は容赦なく先物市場で国債相場を売り崩すだろう。
(8)これをおそれて銀行や生保が密かに国債を売り始めたから、日銀が公定歩合を引き上げるまでもなく、長期金利が急上昇しているのである。
(9)日銀が金利を上げるのは、景気が好転して消費者物価が上昇するからである。景気が好転する時には株価が上がるから、銀行は国債を売って株式を買う。これがインフレ時代のマネーの正常な流れであって、金利が上がれば株価が下がるという論理は机上の空論である。

(五)公的年金は10兆円単位の損害を受ける。

(1)そこで重要な問題が起こる。日本最大の機関投資家である公的年金について考えてみたい。
(2)エコノミストの弱気論を受けて、公的年金は運用資産に占める株式の構成比を11%に縮小したから、株価が値上がりすると11%を超えた株式を売る。それゆえ公的年金は過去3年間に株価が暴騰したにもかかわらず、その恩恵をわずかしか受けていない。
(3)しかも公的年金は株式を売った資金で国債を買った。リスクの高い株式からリスクの低い国債に逃避したつもりだろうが、現実には株式の底値を売って国債のド天井を買った結果となるだろう。
(4)特に世界の金融史上空前のゼロ金利の日本の国債は、脱ゼロ金利政策を受けてすでに歴史的な大天井を形成したと私は思う。
(5)相場の天底を間違えた公的年金は国債の暴落で10兆円単位の大損害を受けるだろう。
(6)その時、加入者である国民の怒りが爆発するだろう。
(7)融資業務を持たない郵貯もまた、350兆円の預貯金の大半を国債に投資しているから、巨額の損失を抱え込む可能性がある。民営化した郵便局の西川新社長は先に三井住友銀行の再建で苦労し、今度は郵貯の民営化で苦労するだろう。
(8)日本の大手生保も株式を売って国債に乗り換えている。相場を知らない優等生の理論ほど怖いものはない。

(六)相場観。

(1)中国B株が猛反騰に転じた。インドの株価が新値街道をばく進している。人口超大国の高度成長は衰える気配がない。
(2)その結果、石油、石油化学、鉄鋼、非鉄、貴金属、穀物、食肉、乳製品など、工業用原材料と食料品の相場が上昇し、構造的な需給逼迫傾向がますます鮮明となっている。
(3)石油相場の高水準定着で、オイルマネーの増勢が続く。
(4)中国、インド、ヨーロッパ各国、アメリカなど世界の主要国で株価が堅調である。
(5)日銀の金融政策転換論は好調な日本の景気、業績、消費を反映している。
(6)金融政策の転換が株価下落を招くという弱気論は根拠が乏しいばかりか、中長期的には国債から株式へ、マネーの大逆流を招くだろう。
(7)投資信託やネット取引を通した個人投資家の資金量は短期的な波乱を超えて増勢傾向をたどるだろう。
(8)日本株は2月に急落したが、上昇課程の小休止、踊り場と見る。
(9)業種、銘柄を含む人気の流れにも大きな変化はないだろう。