2005/6/6

  2005年6月6日(月)
  ファイナンスによって激変する企業価値。
  増資や売り出しによって企業の財務内容が革命的に
  変化する場合が多い。
  今回は4社について投資価値が激変する有様を具体的
  に考察したい。

(一)エムスリー(2413)。

(1)エムスリーの筆頭株主であるソニーコミュニケーションネットワークは06年3月決算の予想税引き利益を7億円から10倍の75億円に修正した。子会社エムスリーの株式17,935株の売り出しに伴う利益である。
(2)売り出しそのものはエムスリーにとって浮動株が増えるからマイナス要因である。
(3)しかし今回の突然の売り出しは、ソネットエムスリーが東証第一部上場に備えて大株主の持ち株比率を低下させる必要があったためと推定される。
(4)エムスリー自身は新たにアメリカ、韓国市場に進出する。もし、日本で開発した医療ソフトがアメリカで通用すれば、株価のスケールが一段と大きくなる。

(二)T・ZONE HD(8073)。

(1)T・ZONE HDの子会社マルマンの上場が内定したと業界紙が報じている。上場に際して持ち株の一部を売り出すから、06年3月期の利益を大幅に増額修正する。保有株式の評価益も激増する。上場の詳細はまだ公表されていないが、半端な金額ではないだろう。
(2)T・ZONE HDはその他の子会社も上場を予定しており、上場の都度利益と保有株式の評価益が急増する。ちなみに、ソフトバンクは毎年巨額の赤字を計上しているにもかかわらず、ヤフー等の持ち株の含み益を評価して高株価を維持している。
(4)T・ZONE HDは増加資金を未上場企業の買収や上場優良企業に集中投資する。これまでの投資銘柄は4月28日付けで記載しているが、その後も一貫して買い増しを続けており、直近では新たに大田花き(7555)が加わっている。
(5)T・ZONE HDは長期投資によって巨大な資産を構築したアメリカのバフェット氏をモデルとしているが、T・ZONE HDの成長スピードはバフェット氏を大幅に上回っている。

(三)ダイエー(8263)。

(1)ダイエーは私の推奨銘柄であるが、株価は下落し、低迷したままである。不明をお詫びしたい。
(2)ダイエーも1,000億円の第三者割り当て増資を行い、さらに銀行が6,000億円強の債権を放棄した。1兆円の借金は事実上3,000億円に圧縮された。財務内容の改善は空前のスケールに達しているが、奇怪にも株価が低迷している。再生機構に対する不信感が払拭されないからであろう。
(3)債務超過を懸念する質問が多いが、誤解である。6000億円の銀行による債権放棄をそのまま計上すれば利益供与として3,000億円の税金がかかるから、先ず前期に赤字を計上し、今期に利益を計上する。
(4)そのため一時的に債務超過となるが、保有不動産で大幅な含み益を圧縮し、閉鎖店舗等の償却を前倒しで一括計上したと推定される。その結果、大手スーパーの中で最も優れた体質を構築したから、今後は誰が経営しても利益が出るだろう。
(5)問題は再生機構が筆頭株主になった点にある。ダイエーには終始一貫、アメリカのウォルマートが買収を表明していたが、再生機構が政治力を用いて介入したばかりか、筆頭株主となるに及んで、降りてしまった。さもありなん。これではウォルマートが再建を軌道に乗せても、果実をそっくり再生機構に奪われる。
(6)再生機構はインサイダーそのものだからダイエーの変身ぶりを誰よりも知り得る立場にある。そのため世界ダントツのウォルマートを排除して、自ら筆頭株主となったのである。竹中大臣の威を借りて、ネズミが虎に化けたのである。
(7)ついでながら、再生機構はカネボウにも介入して再建を混乱させた。最有力の花王を排除し、権力を振りかざして主役を演じようとするから、経営がひねくれた。株式市場では株価が唯一絶対の評価基準である。株価は再生機構の出しゃばりに明快に「ノー」と宣告したのである。
(8)現に、ダイエーでは第2位の大株主となった丸紅の影が薄く、新任の会長、社長の経営方針が見えない。再生機構の介入による長期の経営不在で、いつまでも解雇の不安にさらされている社員がかわいそうである。繰り返すが再生機構には経営の主役となる資格も能力もない。
(9)しかし、ダイエーは再生機構が株を盗みたくなったほど財務体質を強化した。これまでは再生機構が乗っ取りを謀って悪材料ばかりを流布したが、これからは新経営陣による好材料が表面化する。株価は陰の極に達していると私は思う。

(四)ミサワ(1722)。

(1)ダイエーとは対照的にミサワはスポンサーが日本最強のトヨタに決定している。トヨタは人材と資金を投入して再建に当たる。私は経営の常識としてトヨタが第3者割り当て増資を引き受けて筆頭株主になると思う。
(2)トヨタは年間利益1.7兆円の世界屈指の優良企業である。1,000兆円の不動産市場に本格参入するために、自動車で蓄積した技術と販売のノウハウを住宅部門に投入するだろう。
(3)私は時価総額15兆円のトヨタよりも、時価総額1,000億円のミサワの変化率に魅力を感じる。

(五)木村剛と竹中大臣。

(1)昨年日本振興銀行の創業者である落合伸治を追放して社長に就任した木村剛が、早くも代表権のない会長に追い込まれた。私が銀行設立時に即座に倒産必至と予測したとおりの結果となりつつある。
(2)木村剛は日銀出身でダイエーや双日や大京など巨大企業30社を名指しでつぶせと主張して金融庁の顧問に迎えられた。木村剛は竹中大臣の威を借りて権勢を振るったが、実績を見れば小さな銀行一つまともに経営できなかった。巨大企業と巨大銀行がこの程度の人物に翻弄され、現在も後遺症に苦しんでいる。
(3)竹中大臣は現在、郵政民営化担当大臣として国会の論戦に望んでいる。しかし肝心の株式会社の経営を知らないから、郵政を民営化した後の構想が支離滅裂で、野党の攻勢を受けて立ち往生している。
(4)竹中大臣は学者としていかに優秀であっても、民間企業の経営の実践を知らない。その人物が金融庁に君臨して民間の銀行や企業の生殺与奪の権力を行使し、今度は資金量360兆円の郵政事業を切り刻んで株式会社に改組する。一人の人物に人間の能力の限界を超えた独裁権力を与えた首相も、独裁権力を受け入れた竹中大臣も、狂気の人といわざるを得ない。
(5)木村剛が馬脚を現したように、狂気は早晩破綻を招くだろう。