2005/5/9

  2005年5月9日(月)
  西武鉄道の株価算定の不可解。
  西武鉄道の買収株価が500円から2000円まで、4倍に開
  いている。利回り価格と路線価格との間に大差が開き、
  二重価格がうまれたからである。時代錯誤の金融行政が
  欠陥を露呈した。

(一)アメリカの不動産相場。

(1)1990年に世界中で不動産相場が急落した。
(2)しかしアメリカでは即座に不動産投信を大量に組成して急落した不動産を買い向かい、2年で不動産不況を終結させた。
(3)不動産投信の時価総額は現在30兆円を超えている。
(4)チャートは住宅価格であるが、商業用不動産も過去10年間、ほぼ一貫して史上最高値を更新している。

(5)不動産投信は利回りで売買する金融商品となり、株価は利回りを反映して常時長期国債の0.5〜1%上ザヤである。
(6)日本のエコノミストは、アメリカの金融に最も詳しいリチャード・クー氏でさえ、5年も前から毎年、アメリカの不動産相場が暴落寸前だと述べている。
(7)このようなエコノミストの判断ミスは、アメリカの不動産が金融商品に衣替えして「不動産」から「動産」に一変したことに気がつかないために生じている。
(8)私は不動産相場が将来も暴落しないと主張するつもりはない。しかしもし暴落があるとすれば、長短金利が急騰して国債価格が急落し、不動産投信が国債に連動した場合に起こるだろう。
(9)アメリカの不動産はグリーンスパンFRB議長の金融政策に敏感に反応する金融商品に変化したのである。

(二)日本の不動産相場。

(1)1990年のバブルのピークに、日本の不動産の時価総額はアメリカの2倍の2,000兆円に達していたが、現在では1,000兆円で、アメリカとほぼ同水準である。うち商業用不動産も500兆円規模で肩を並べている。
(2)日本の株式の時価総額はアメリカの4分の1であるが、不動産の時価総額はアメリカと肩を並べており、日本経済と日本人にとって不動産がいかに重要な財産であるかを明快に示している。
(3)アメリカ経済は過去10年間、不動産相場の上昇をテコとして安定的に成長したが、竹中大臣は日本独自の含み資産経営を敵視し、不動産を暴落させる政策を集中的に断行し、多数の企業を倒産に追い込んだ。しかしユダヤ資本は倒産企業の不動産価値に注目し、次々に買収した。西部鉄道も目標の一つである。
(4)アメリカの不動産投信は500兆円の商業用不動産のうち30兆円を保有しているに過ぎないが、流通市場の売買シェアでは90%以上を占めており、事実上アメリカの不動産相場を支配している。
(5)これに対して日本の上場不動産投信はまだ2兆円に過ぎないが、非上場の不動産投信を加えると10兆円を超えている。すでに商業用不動産は不動産投信が価格支配力を握り、非上場の不動産投信は上場投信への衣替えを急いでいる。上場投信は2年以内に10兆円を超えるだろう。
(6)銀行の窓口販売では不動産投信の人気が圧倒的に高い。ゼロ金利の時代に3%台の利回りが確保できるのだから、不動産投信への資金流入が続き、今後も不動産相場を下支えするだろう。日銀のゼロ金利政策が解消し、長期国債の利回りが現在の1.2%台から2%台に急騰するまでは不動産投信の割安感は消えない。
(7)水が土地の低い方に流れるように、マネーは金利の高い方に流れる。これは金融市場の大原則で、不動産が金融商品に変わった現在では、不動産相場も金融政策を反映する。
(8)日本の銀行は1990年に不動産相場の暴騰によって世界ランキングの上位を独占したが、現在は不動産相場の暴落によってベスト10から姿を消した。不動産投信をアメリカ並みに成長すれば、不動産相場が値上がりして、土地本位制度が威力を回復し、日本の銀行の国際競争力が一挙に回復するだろう。
(9)しかるに金融庁はいまだに商業用不動産を利回りではなく、路線価格で算定し、銀行の不動産担保融資と企業の不動産保有を阻止しているのである。そのひずみは西武鉄道の株価算定に端的に表れている。

(三)西武鉄道の適正株価。

(1)西武鉄道は株主名簿の虚偽記載が問題となって上場廃止となった。東証は最低株主数を決めており、西武鉄道は不足した株主数を架空名義で補っていた。
(2)堤義明会長の個人的な過失のために上場を廃止すれば一般株主は大きな損害を受ける。しかし東京証券取引所は、一般株主から損害賠償の訴訟を受けても顧問弁護士から裁判で対抗できるという助言を得て、上場廃止に踏み切った。東証は一般株主の利益擁護を最優先の課題としている。私は即座に、株主が損害を受けても訴訟に対抗できるとは、本末を転倒した株主軽視だと批判した。
(3)主力のみずほ銀行を中心に、財界から諸井氏を会長に招いて、改革委員会が組織された。委員会は決議案を5月25日の臨時株主総会にかける。
(4)すなわち2,000億円の第三者割り当て増資によってみずほ銀行が堤義明会長の持ち株を上回る大株主となり、みずほ銀行の前副頭取、後藤氏を次期社長に選任して、経営を改革する。改革委員会は1株当たりの株価を推定500円以下と評価している。
(5)この間に、改革委員会からはスキー場やゴルフ場が大赤字に陥っている等、業績悪化の情報ばかりが流れ、マスコミは堤義明氏の独裁経営の失敗に非難の集中砲火を浴びせた。その手法は金融庁の手法そのものである。私はこれに対して、創業社長の堤康次郎氏は戦後の混乱期にピストル堤の威名を取ったほど、体を張って不動産を買いあさった。その巨大な含み益が消滅したはずがないと論評した。また堤義明氏は2代目であるが、オーナー経営者は企業を愛し、企業の資産を守る執念においてサラリーマン経営者よりも優れている。先代が見込んだ義明氏に経営力がないと論評するのは浅薄である。
(6)さらに私は次の理由で改革委員会の改革案は通らないだろうと予想した。第1に、実質70%の株式を支配する堤義明氏を棚上げした改革案が有効だとは思えない。第2に、堤義明氏は残りの30%をTOBによって買収し、上場を廃止して個人経営に徹することができる。第4に、堤義明氏は最も有利な買収案を提示した企業に全株式を売却することができる。又は一部を売却して経営権を維持することができる。
(7)果たして、先ず村上ファンドが1株1,000円で全株式のTOBを表明した。次いでゴールドマン・サックスが1株1,500円で、さらにモルガン・スタンレーは1株2000円の買収価格を提示した。買収株価が上下4倍に開いたのだから、西武鉄道は公開TOBによって買収企業を決定せざるを得なくなる。買収株価はもっと跳ね上がる可能性がある。
(8)変わり身の早い委員長の諸井氏は改革案を発表する前に敵前逃亡した。改革委員会は空中分解するだろう。
(9)それならば改革委員会はなぜ現実かい離の改革案をまとめたのだろう。

(四)金融庁の政治的で非現実的な資産査定。

(1)みずほ銀行は西武鉄道の資産査定で金融庁の算定手法をまねたと思われる。
(2)今日では商業用不動産は利回りによって売買されている。利回り革命が起こり、都心の不動産価格は4年間で2〜4倍に暴騰した。その結果、日本の商業用不動産には利回りと路線価の2重価格が生じたが、投資家は言うまでもなく実勢価格の利回りで売買している。
(3)しかるに金融庁は銀行検査で路線価格を用いている。しかも大型物件では表通りと裏通りで評価が全く違うから、金融庁のさじ加減ひとつで担保不動産をどのようにも査定することができる。
(4)金融庁は銀行の特別検査を通してダイエーや大京等を不良債権と断定し、UFJの経営者を追放し、三井住友の西川頭取を退任に追い込んだ。金融庁は客観的な評価よりも政治的な意図を優先している。
(5)ダイエーや大京やミサワホームの経営者は自主再建を主張し、徹底的に抗戦したが、様々な政治力を用いて排除し、銀行に不動産の評価損を償却させた上で、特定の第3者に売却された。
(6)マスコミは金融庁がリークする情報に無批判に飛びついて、権力による魔女狩りに荷担した。その状況は中国政府や韓国政府の情報操作によるジャパンバッシングと似ている。
(7)みずほ銀行は銀行検査で体験した金融庁の検査手法を援用してマスコミを味方につけたが、金融庁のような権力を持たないから、競合企業の標的となった。
(8)私は過去10年間、不動産投信が日本経済の救世主になると主張してきた。不動産市場で進行している利回り革命の現実を見れば、西武鉄道の評価をめぐる混乱は容易に予想できた。

(五)投資の着眼点。

(1)過去4年間に竹中大臣の金融改革を支持し、不動産相場は2度と立ち直らないと思いこんだ人は千載一遇のチャンスを失った。
(2)土地本位制度の復活を確信し、不動産の利回り革命を直視した企業だけが、外国資本と日本資本とを問わず、銀行の担保不動産の売却や倒産企業の買収に介入して巨大な利益を上げた。
(3)オリックスはその筆頭であるが、特に新興市場からアセットマネジャー等の成長企業が輩出した。
(4)不動産は日本最大の1,000兆円市場である。不動産はもち論、不動産周辺のビジネスの中からエイブルやリプラスのような成長企業が生まれた。
(5)時価会計の導入によって、企業が保有する不動産や株式の帳簿価は大幅に低下した。含み損を償却したから、含み益ばかりが残っている。
(6)日本の企業が蓄積した不動産の評価益はこれからも企業買収の最大の目標となるだろう。
(7)個別の銘柄については、逐次別の機会にふれたい。